Dear Great Hackers

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地図データのゼンリンと技術の日立。両社の強みを活かした長崎の観光型MaaSが面白い!

技術の進化はモビリティの進化でもあると言えるほどに、人類は移動の効率化・高度化を求めて進化を続けてきました。馬車から自動車、蒸気機関車から新幹線、飛行機、そしてスペースシャトルまで、近代以降の技術革新は人の移動をアップデートしてきた歴史でもあると言えます。
ここ数年で耳にすることの多くなった「MaaS(Mobility as a Service、読み方:マース)」は、現代社会における新たな移動の概念です。

サイバー空間とフィジカル空間の高度な融合を前提とするSociety 5.0時代。交通をクラウド化して「サービス」として捉え直すMaaSは、モノからコトへと価値観が移る時代との相性は抜群と言えるでしょう。あとは、いかに人々のインサイトを捉えたサービスを設計できるかがポイントとなります。

今回は、そんなMaaS分野で新たな挑戦をしているプロジェクトチームについて。地図情報の国内最大手である株式会社ゼンリンが、2020年よりMaaS事業部を新設。株式会社日立製作所の技術サポートのもと、長崎県に軸足を置いた新たな「Maasサービス」の開発・設計を進めています。
この企画・開発を進める両社4名のプロジェクトメンバーにお話を伺いました。

プロフィール

藤尾 秀樹(ふじお ひでき)
株式会社ゼンリン
IoT事業本部 MaaS企画部 部長
2020年より新設されたMaaS企画部にて新規事業開発を牽引。同年4月に設立された研究開発拠点「長崎R&Dブランチ」と共に、自治体や事業者へのニーズ聞き取りを実施しながら、技術・事業開発に取り組んでいる。

 

田副 寛太郎(たぞえ かんたろう)
株式会社ゼンリン
IoT事業本部 MaaS企画部 ビジネス推進課 主任
2019年にゼンリンへ中途入社。元々は自動運転の標識の自動認識などの技術領域に携わる。その後外資系金融機関を経てゼンリンへと転職。出身が長崎で、MaaSプロジェクトの企画から携わっている。

 

和田 一毅(わだ かずき)
株式会社日立製作所
社会システム事業部 交通情報システム本部 主任技師
鉄道企業向けシステムを提供している部署にて、主に座席予約システムなどの大規模システム開発のマネジメントを担当。近年ではデジタル関連案件も増えており、今回のMaaSプロジェクトでの活用が期待されるデジタルチケッティング基盤「権利流通基盤」も担当している。

 

徳川 隆雄(とくがわ たかお)
株式会社日立製作所
金融第一システム事業部 金融システム第一本部 第四部 主任技師
長年、信託銀行向けのSEとして開発プロジェクトを担当。企業年金システムや投資信託システム構築に従事していた。2021年4月からはIoT決済事業に参画し、今回のMaaSプロジェクトでの活用が期待される「IoT決済プラットフォームサービス」を担当している。

新規事業は、長崎の魅力を再発見できるアプリの開発

――まずは、ゼンリンと日立製作所で開発を進めている新しいMaaSサービスの概要を教えてください。

藤尾 : MaaSの概念はとても広いのですが、私たちが今回取り組んでいるのは「観光型MaaS」です。もともと地図を作っていた会社ですから、「移動」を通じて持続可能な地域共創サイクルに貢献したいと考えて、まずは滞在型観光を喚起する目的で観光型MaaSに着目しました。
集めたデータをいかに活用して良いものにしていくかがポイントになります。

――具体的にはどのようなサービスなのでしょうか?

藤尾 : 一言でお伝えすると、「長崎の魅力を再発見できる」アプリです。
ユーザーは、アプリを起動して気になる場所をチェックして「お気に入り」に入れていきます。旅程作成に進むとアプリが「お気に入り」を巡るよう自動的に旅程を作るので、それに即したチケットをまとめて購入して、現地で使いながら自分だけの旅行・観光を楽しむという流れです。

藤尾 : 旅には大きく分けて「旅前」「旅中」「旅後」があると思うのですが、まずは旅前のコンテンツづくりに取り組んでいます。
具体的には、長崎を15のブロックに分けてモデルコースを掲載し、その中から「お気に入り」に入れてもらったものについての旅程を提供する仕組みにする予定です。

タウン誌や学生など地元の方々と協力しながら、ユーザーの気付きにつながるようなコンテンツづくりをしています。

本質的なサービス構築のため、自社予算100%で実施

写真左:髙山善司氏(株式会社ゼンリン 代表取締役社長)、写真右:田上富久氏(長崎市長)

――なぜ、最初のエリアが長崎市だったのでしょうか?

藤尾 : もともと長崎県では、IoT関連産業の育成・集積を推進していたこと。それに加え長崎大学さまをはじめとした産学連携による技術開発が期待できたためです。特に情報解析に強い学部もあり、エキスパートの皆さんとの連携がしやすい環境がありました。

そこでゼンリンは、2020年4月に「長崎R&Dブランチ」という研究開発拠点を長崎市に開設し、AIを活用した地図データの作成に関する研究開発や新規事業創出の役割を推進しています。

そのような背景から、2021年7月には弊社と長崎市で包括連携協定を締結し、地図情報を活用した長崎市の地域課題の解決を図る体制を整えているわけです。

――地域課題は多岐にわたると思いますが、今回はその中でも「観光課題」に着目したということですね。

田副 : はい。やはりコロナ禍による観光需要の減少が大きいですね。私は長崎出身なのですが、市内の経済を支えているのは観光です。コロナ前は年間で700万人ほどの観光客と1,500億円ほどの観光消費がありましたが、コロナ禍で大幅に減少してしまいました。

地域経済の活性化を進めるにあたって、観光客の移動や消費実態を定点的に把握できないか。長崎市および長崎県のご担当者には、そんな思いがありました。

藤尾 : 長崎市の職員の方々は、観光と交通に関する課題を解決したいという強い意思を持っていらっしゃいました。ですので私たちは、ぜひ問題解決に向けて協力したいと考え、費用をいただかずにプロジェクトを推進しています。

――お金をもらっていないんですね!

藤尾 : そうでないと、本質的なMaaSサービスは生まれないんじゃないかなと思っています。もちろん、長崎市や長崎県の担当者の方々からは、そのために必要な人を紹介していただいたり、必要なリソースの調整をしていただくなど、非常に助けていただいています。2021年度中に実証実験を市内で行う予定で進めていますよ。

実証を通じて、寄り道による、人とは違った長崎の体験・思い出作りを開発していく想定

藤尾 : この仕組みをうまく構築するために、日立製作所の皆さまに技術面でサポートいただいています。

ID管理をなめらかにする「権利流通基盤」

――今度は、日立製作所がどのような技術支援を行っているかを教えてください。

和田 : ただいまお話があった観光型MaaSサービスでは、観光する方がシームレスにチケットの購入・使用ができる必要があります。

日立では、デジタルチケッティング基盤である「権利流通基盤」や「IoT決済サービスプラットフォーム」を提供しております。
私は前者の「権利流通基盤」を担当していることから、その仕組みを今回のMaaSサービスに実装する役割を担っています。

――「権利流通基盤」って、名前がかっこいいですね。具体的にどんな仕組みのプラットフォームなのでしょうか?

和田 : 各事業者がそれぞれ管理しているIDを、基盤上の共通IDへと統合するものです。観光には、鉄道会社や飲食店、小売店舗など、様々な事業者が関わることになります。それぞれが個人に対してIDを付与して管理をしているので、横断的にその個人を把握することができません。

これに対して権利流通基盤を使うことで、様々なIDを基盤上の共通IDで横断的につなげることができるので、ユーザーは任意の媒体1つで様々なサービスを利用可能することができるようになります。

――なかなかイメージがしにくいのですが、何か具体的な事例はありますか?

和田 : 例えば交通系ICカードなどは良い例でしょう。もともとは鉄道会社ごとに違うICカードを提供していたわけですが、現在はJRでも私鉄でも、全国の鉄道で相互に使用できますよね。

細かくなるので詳細は割愛しますが、権利流通基盤には2段階のフェーズがあります。先ほどお伝えした共通基盤上の1つのIDで様々なサービスを利用できるようにするのはフェーズ1で、共通基盤上のサービス間でIDを所有するユーザに対して柔軟なサービスを提供する形がフェーズ2になります。

ゼンリンさまのMaaSサービスでも、将来的にフェーズ2の実現を目指しています。

旅行者も事業者も便利になる「IoT決済サービスプラットフォーム」

――もう1つの「IoT決済サービスプラットフォーム」についても教えてください。

徳川 : こちらは私が担当しています。権利流通基盤がID流通に関わる仕組みなのに対して、こちらは文字通りお金の流通に関わる仕組みです。デジタルチケットがシームレスに流通しても、スムーズに決済ができないと実用に耐えないので、安全・安心とレジリエンスを強化する形で、決済プラットフォームを提供しています。

具体的には、クレジット決済とプリペイド決済、そしてデビット決済を提供していまして、それぞれをAPIで公開しております。

――MaaSサービスで考えると、それぞれの旅程で示されたアクティビティについては、基本的にはスマホ上でキャッシュレス決済ができるということでしょうか?

徳川 : そういうことです。旅行者の皆さまが便利になるのはもちろん、サービス事業者も、決済機能を導入するにあたって決済システムや決済機関との契約・運用保守を個別に対応する負荷が軽減されます。

――なるほど。この権利流通基盤とIoT決済サービスプラットフォームを組み合わせることで、サービスとしての観光提供を実現するということですね。

藤尾 : これに加えて、弊社の空間データベースである「Mobility based Network」も活用しています。自動車や鉄道路線、駅構内通路、歩行者用など、移動に伴う様々な交通モードを網羅したネットワークデータなので、人々の位置・行動情報を取得することができます。
行動データとID情報、そして決済インフラを整備することで、データドリブンに地域活性化に活かそうということです。

田副 : 決済機能を搭載しようとすると、堅牢性やレスポンスの課題を解決する必要があるので、自分たちだけではどうしても難しいです。また権利流通基盤の仕組みもマーケティング的に非常に可能性があると感じていまして、日立製作所のソリューションに非常に助けられています。

モレなく、ダブりなくチケットの組み合わせを考えることの難しさ

――新規事業開発には様々な困難が伴うと思うのですが、その点はいかがでしょうか?

藤尾 : もちろん、困難はあります。例えばチケット管理1つ考えても、様々な種類があるので仕様策定が大変なんですよね。観光施設の窓口で購入するものもあれば、サブスクリプションでまるっと提供されているものもある。ホテルのフロントで配られるクーポンを当日持参すれば、割引価格が適用になるといったケースもありますね。

田副 : 他にも電子チケット前提のものであれば、QRコードを読み取って使うものもありますし、画面表示のPDFチケットを見せるだけというオペレーションもあります。予約式のものであれば、本予約と仮予約の概念もあります。

つまり、組み合わせの数だけチケットがあることになります。

藤尾 : 鉄道の切符のようにある程度は型が決まっているものばかりではありません。観光施設やツアーなどの観光事業者となるとパターン数が非常に多く、それぞれの事情を反映させるのに苦労していますね。

和田 : だからこそ、開発には柔軟さが求められると感じています。もともとは要件定義をカッチリと固めるアプローチが多かったのですが、このようなプロジェクトだからこそある程度柔軟に、それこそアジャイルに機能を追加していって、自社サービスとして成長させることが大切だと感じています。

――なるほど。考えただけで大変そうです。

徳川 : また、IoT決済サービスプラットフォームはAWSのクラウド上に構築しております。新しいサービスも積極的に活用しており、比較的難易度が高く、社内のクラウド専門部隊やAWSからもエンジニアに参加いただいて、“AWS Well-Architected Tool”を活用しながら常に話し合って対応しています。

※日立製作所の「Software CoE クラウドビジネス推進センタ」についてはこちらをご参照ください。
OT×ITで社会イノベーションに切り込む!今、日立製作所のクラウドエンジニアが面白い

「長崎の人って、あったかいんですよね」

――お話を伺っていると、両社がそれぞれの強みを補完し合っている印象なのですが、事業共創パートナーとして、いいなと思うことをお互いに教えてください。

和田 : まずテクニカルな面として、これからのサービスは個人に紐づくものが主流になっていくでしょうから、移動情報は必須になると感じています。私たち日立はそのデータ基盤を持っていなかったからこそ、ゼンリンさまとの協業は非常に意味のあることだと感じています。

あともう1つ、これは少し個人的な感想でもあるのですが、ゼンリンのおふたりはよりユーザーに近い立場でディスカッションしてくださるので、視野を広げていただいていると感じます。

田副 : 私たちとしても、様々な情報をデータとして活用したいと考えていたので、技術的な部分を日立さまにご支援いただけるのはとてもありがたいです。

藤尾 : 中長期の視点をもって話し合っていただけるのもありがたいですね。サービス開発という表面の話だけではなくて、いかに活用して地域に貢献できるか。この姿勢で協業できていると思います。

徳川 : ゼンリンさまが長崎の事業者の皆さまと1対1で日々やりとりされて、事業を一から立ち上げていく苦労や大変さを横で見ているので、大変頭が下がります。これまでは事業がある程度できているところにシステム提供していくプロジェクトが大半だったので、一からのものづくりに携われるのは楽しいです。

藤尾 : 長崎の人って、あったかいんですよね。あったかいからこそ、しっかりと皆さまの目線でサービス開発をして、なんとかお力になりたいと思っているんです。

――素晴らしいですね。「中長期で」というお話がありましたが、今後目指される未来像についても教えてください。

藤尾 : 長崎市からのスタートですが、いずれは全国の観光地にサービスを広げていきたいと考えています。ゼンリンとしては地図の会社というだけあって、歩道一本一本の情報をもっていて、また道路や建物の詳細情報もあるので、それらの点を線でつなげてプラットフォームにしていくと、とても面白いことになると感じています。
もちろんその前提として、まずは長崎県周遊のためのMaaSへと成長させていく必要があると考えています。

――全国展開となると、また様々なハードルがあると感じますが、やりやすい地域の条件のようなものってあるのでしょうか?

藤尾 : 個人的に感じていることは、「自治体のモチベーションが高い」ことが大事かなと。先ほどもお伝えした通り、長崎市の職員の方々は非常にモチベーション高くプロジェクトに取り組んでいただいています。だからこそ、一緒に良いものを作ろうという気持ちになるわけでして、そういう「人」の部分がとても大事だなと思います。

一番助けられている言葉は「ユーザー視点」

――最後に、今回のプロジェクトへの思いを一言ずつお願いします!

田副 : さっきお話がありました通り、一からサービスを作るのってとても大変だなと実感しています。一方でやりがいも非常に大きいなと思っていまして、今まで社会にない価値を提供できるチャンスを会社として用意してくれるのは、とてもありがたいと思います。

徳川 : 個人的には、技術的なフットワークを軽くすることの大切さを実感しています。スピード感のある対応の中で、いかに技術を深掘りできるか。こういうプロジェクトこそ、あらかじめ有識者を配置して、素早いコミュニケーションやフィードバックをすることがとても大事だと感じています。

和田 : 日立は歴史のある企業なので、硬くて重い組織を想像されるかもしれませんが、様々なチャレンジもしています。
今回も、実際にできたものを見て、やってきて良かったなと思いますし、どんどん良いものになってきている実感があります。相応の苦労があっても、その苦労に見合った充実感を味わえる。新しいサービスにチャレンジする良さだなと感じています。

藤尾 : 弊社の代表がいつも出している言葉で、今回のプロジェクトでも一番助けられたのは「ユーザー視点」です。

料理に例えると、ゼンリンは地図の会社として細かい「素材(技術)」はいっぱい持っています。しかし「レシピ」はまだまだ圧倒的に足りていない。だから地図の使い方という新たな「レシピ」を生み出していきます。

観光消費の向上を目指すところからスタートした企画ですが、そこからペルソナを考え、サービスを企画し、いかに価値を最大化していくのか。そこを引き続き、日立さまと一緒にやっていければと考えています。まだまだやれることがいっぱいあるからこそ、チャレンジするのは面白い。仕事だけれど、本当に楽しんで取り組んでいますよ。

編集後記

技術とデータ、それぞれに強みをもつ2企業による新規事業は、非常にワクワクするお話です。私自身、バケーション寄りのワーケーションが好きで様々な地域に足を運ぶのですが、自分で情報収集した事前情報以上に、現地の方が提供してくれる情報の価値が高くて、旅の楽しさが倍増します。
まずは固定のモデルコースからのスタートですが、中長期的には地域の観光資源が細かくモジュール化されて、個人の趣味嗜好に合わせてAIが自動で組み合わせを考えて提案してくれる。そんなパーソナライズの仕組みが出来上がることにも、期待したいと感じました。

取材/文:長岡武司
撮影:太田 善章


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