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クラウドエンジニアとプロダクトマネージャーの解像度を上げる!日立製作所主催「Social Tech Talk #04」イベントレポート

2022年12月7日、IT・OT・プロダクトを用いて、グローバルにおける様々な分野にまたがる社会課題の解決に挑む日立製作所が、エンジニアのキャリアや働き方をテーマに据えた「Social Tech Talk #04」を開催しました。

テーマは「クラウドエンジニアとプロダクトマネージャー」。人々が幸せで豊かに暮らすことができる「持続可能な社会」の実現に向けて、それぞれどのようなことを意識しながらキャリアを歩めば良いのか。

今回はエンジニアとして働きながら漫画家など多方面でも活躍されている千代田まどか(ちょまど)氏と、『プロダクトマネジメントのすべて』(翔泳社)の共著者である小城久美子氏をゲストに迎え、2セッションに分けて日立エンジニアのメンバーと語り尽くしました。

※過去の開催レポートはこちら
▶︎#01:データ駆動型の新しい社会を乗り切る。予測不能な時代に挑戦を続ける日立製作所の「Social Tech Talk #01」イベントレポート
▶︎#02:VUCA時代におけるキャリアや働き方とは?日立製作所主催「Social Tech Talk #02」イベントレポート
▶︎#03:エンジニアのキャリアと生存戦略を考える。日立製作所主催「Social Tech Talk #03」イベントレポート

トークセッション①ちょまどさんと聞く日立のクラウドエンジニアについて


まずはトークセッション①ということで、DevRelとして活躍しているちょまど氏と、日立製作所の中でも国内トップクラスのクラウドエンジニアが多数在籍する「クラウドプロフェッショナルサービス部」のエンジニアによる対談内容をお伝えします。

登壇者プロフィール

大手外資系 IT 企業で DevRel 業をしているエンジニア。エンジニアカルチャーが好き。英文科卒業後、新卒入社した日系企業を(プログラミングやりた過ぎて)3ヵ月で辞めて、スタートアップにエンジニアとして転職。そこで C# に出会う。C#/Visual Studio が好き過ぎて、それらの生みの親の会社に転職し、現在に至る。ツイッター@chomadoではフォロワー9万人を超えるほどのツイ廃。松屋が好き。

松沢 敏志(まつざわ さとし)
株式会社日立製作所
サービス&プラットフォームビジネスユニット クラウドマネージドサービス本部 クラウドプロフェッショナルサービス部
2007年に日立製作所へ入社。金融/社会/公共/産業などの様々な業種のAWS/Azure/Google Cloud活用プロジェクトにおいて技術面でリードしていく役割を担うクラウドエンジニアリングチームの何でも屋。2021-2022 APN AWS Top Engineers & APN ALL AWS Certifications Engineers受賞。現在のチームへ異動する2019年まではLinuxカーネルなどのソフトウェア開発、Red Hat製品(Linux/OpenStack/OpenShiftなど)のテクニカルサポート、VMware/Microsoftなどの技術を活用した国内ハイパーコンバージドインフラビジネスの企画/立ち上げなどを経験。好きなものは赤いスポーツカーとロックミュージック。趣味は投資と仕事と子供と遊ぶこと。

※関連するQiita Zine記事はこちら
OT×ITで社会イノベーションに切り込む!今、日立製作所のクラウドエンジニアが面白い

トークテーマ①:クラウド領域の現状

――まずは昨今のクラウド事情について教えてください。

松沢:初めに少しクラウドの説明から入っていきます。ご存知かもしれませんが、クラウドとはコンピューターやソフトウェアの機能をインターネット上でいつでも利用できるサービスを指します。昨今ではクラウドファーストやクラウド・バイ・デフォルトなどの考え方が浸透してきており、システム開発・導入の際に積極的にクラウドを活用する流れが広がっています。

クラウドはIT業界以外でも活用されています。例えば自動車業界では、CASEという言葉に象徴されるように変革の時代を迎えていますが、クラウドはCASEの時代に必要とされる幅広い技術を提供していますので、クラウドのサービスをいかに活用できるかが重要です。技術やサービスの例には、機械学習、AIシミュレーション、データ収集、認証が挙げられます。

ちょまど:エンジニアがクラウドを学習しようとすると、サービスの数がすごく膨大だと思うんですよね。松沢さんはたくさんの資格をお持ちですが、どうやって勉強されているのですか?

松沢:一人ではなく、チームでキャッチアップすることを心がけています。うちのチームでは、それぞれが情報を持ち寄って勉強会を開催するなどして、自分でやっていなかった部分も学べるようにしています。

ちょまど:クラウドエンジニアになる前はLinuxエンジニアをされていて、カーネルも触っていたとのことで。すごいですね、カーネルって深淵過ぎて触れる人はなかなかいないと思います。カーネル畑出身のクラウドエンジニアとして「クラウドへの印象」はいかがですか?

松沢:あくまで僕の印象ですが、ちゃんと動いてるなと思っています(笑) 過去、クラウドOSとも呼ばれるOpenStackというAWSやMicrosoft Azure相当のクラウド基盤を自前で構築するためのOSSがあって、それが世に出たばかりの頃からサポートエンジニアや技術支援をしていたのですが、当時はある程度成熟してきたLinuxと比較すると品質的にはおもちゃ程度の認識でした。不具合対応などを通じてクラウドを実現する裏でどう制御しているのかをずっと見てきたこともあり、今日もちゃんと動いてるなと思っています。

ちょまど:私はインフラ系はまだあまり得意ではなく、ブラックボックスのまま使っているのですが、松沢さんは「こういう仕組みなんだろうな」と想像している感じですか?

松沢:そうですね。いつも見ながらなんとなくな仕組みをイメージしています(笑)

ちょまど:ちょっと垣間見たい!例えばクラウドで障害が起きたとしたら、真っ先に何を思い浮かべますか?

松沢:クラウドで障害が起きたとしたら、真っ先に人的ミスを疑ってしまうのですが、それは期待してない解答ですよね(笑)例えば仮想マシンでI/Oの遅延が起きた場合に、なんとなく仮想ディスク周りの仕組み、ソフトウェアデファインドストレージの実装を妄想すると、もしかして物理ディスクの使用量を均等にリバランスする処理みたいなのがあってそれが裏で動いてたりするのかなとか、そんな勘所がある感じですね。

トークテーマ②:クラウドエンジニアについて

――クラウドエンジニアとしてスキルアップするためには何が必要だと思われますか?

松沢:アウトプットですかね。まず情報を集めて、みんなでシェアしたり、勉強会の講師をやったりすると、分かっていないところに気付けます。あとは慣れですね、案件をたくさんこなすという。日立の中でも多種多様なプロジェクトがあって、社会インフラなども手掛けているので「こんなの組み合わせちゃう?」みたいなのも幾度かあります。例えば、地下の水道管に設置している物理センサーとクラウドとか。

ちょまど:なんでもやっているんですね!

松沢:1つのクラウドサービスで何百とサービスがあり、勉強は尽きません。また、昨日までできなかったことが、しれっと実装されていたりもするので自分の知識をどんどん新しくしないといけないので、ほんと楽しくてしょうがないですね。

ちょまど:昨年、お話しする機会のあった行政書士の方がもともとITエンジニアだったのですが、なぜエンジニアから会計士になったかと聞いたら、「IT業界はせっかく覚えた知識がすぐに腐っちゃうから、そういうのがしんどくなっちゃった。もっと不変なものをやりたくなった」と言っていました。今のお話を聞いて、松沢さんは逆の考えで、新しいものを学んだり追いかけるのが好きなんだろうなと思いました。

松沢:めちゃくちゃミーハーです(笑)新しいものが出てきたらすぐに触りたくなりますね。

ちょまど:新しいものを学ぶのが好きっておっしゃっている時点で、エンジニアとしての特性があるんだろうなって思いました。

松沢:年を取っておじいちゃんになっても大きく変わるというのはあまりないかもしれませんね。いつまでも学んでいる気がします。あと、ちょまどさんは僕のことすごすごエンジニアって言ってくれますけど、もちろん僕にも弱い分野はいっぱいありますよ。

ちょまど:弱い部分? たとえば、さすがに機械語は書けないとか?(笑)

松沢:そうですね。Intelのx86とかそのあたりのアセンブラは読めますけれど。過去にだいぶハックしていて、メモリ上に展開されたLinuxカーネルのアセンブラコードを直接書き換えるライブパッチの開発とかもやっていたので。でも最近はIntelからArmとかに流れていて、僕のもっている知識も使えなくなってきているので、また勉強できますね(笑)あまり使う機会はないですが。

ちょまど:クラウドにしても、私はMicrosoft Azureばかりやっているのですが、松沢さんはAWS、Azure、Google Cloudと全部やっていてすごいなと思います。

松沢:最初にクラウドをやろうとなったときに、日立にはどのクラウドに対するナレッジも経験者も少なかったので、どうせなら同時に全部やっちゃおうと欲張りました。また担当する案件も「社内にナレッジのないような初めてのものは、全部優先的に自分をアサインしてほしい」と言っていたこともあり、ありがたいことに様々な技術を活用した多種多様なプロジェクトを担当させていただけました。

ちょまど:前例のないものを、会社が経験のない人に任せるのって決断力がいると思うのですが、手を上げれば任せてくれるのは、会社のカルチャー的にも良いですね!

松沢:安心して任せてもらえるように資格をいっぱい取っていたのもプラスに働いたのかもしれませんね。今もクラウドエンジニアはまだまだ足りない状況で、対して案件はいくつもあるので、興味のある方にはたくさん来てほしいなと思っています。

トークテーマ③:今後のクラウド領域/クラウドエンジニアのキャリア

――クラウドエンジニアというお仕事の魅力についても教えてください。

松沢:日立の場合、日本中誰もが知っているような企業を顧客としているので、やりがいはだいぶありますね。最近だと、カーボン・クレジット市場の実証における取引システムの共同開発ということで、JPX総研さんとの協創を進めています。僕がジョインしたのは2022年5月末か6月頭くらいだったのですが、そこから開発環境の設計をはじめて、3ヵ月強くらいで本番リリースまで持っていきました。

ちょまど:すごく大きなプロジェクトのようですが、3ヵ月でリリースしたのですね。

松沢:その前からPoCはやっていたのですが、大企業でも3ヵ月ほどでそれくらいのシステムが出てくるんだ、という点でも1つの大きなイメージ刷新だったかなと思います。もちろん、日立にもいろいろなプロジェクトがあるので、ウォーターフォールで何年もかけて開発をするというプロジェクトもあります。ただその一方で、PoC用の環境などは1週間程度で作るというスピード感のものも多くなっているのも事実です。新しいことを試すのにウォーターフォールはあまり合わないなと思っていて、お客さまからの要望をアジャイルに短いスパンで実装していくことが、最近では特に重視される機会が多くなっていると感じます。

ちょまど:Twitterコメントを見ていると「松沢さんのような人と仕事したい」「松沢さんのようなエンジニアになりたい」といったコメントがきていますよ。

松沢:本当ですか、すごく嬉しいです!

ちょまど:松沢さんのようなすごすごエンジニアの方が、日立で働き続けている理由は何ですか?仮に転職しようと思えばすぐにできると思うのですが。

松沢:もともと大学ではコンピュータサイエンスを専攻し、無線通信技術の研究をしていて、仮説・理論の検証をするために様々なシミュレーターをC言語で書いて何百万回も試行するというのをずっとやっていたのですが、そのときにプログラミングって楽しいな、ソフトウェア開発に携わる仕事をしたいなと漠然と思っていたんです。

また当時はIoTではなく「ユビキタス」という、様々なものがインターネットとつながる世界がくると言われていて、そんな時代になったらあんなことやこんなことを実現できたらもっと便利になるのになという妄想をしたりもしてました。そのため、一般的なSIer企業へ就職するよりも、当時総合電機メーカーとして多角化していた日立の方がやりたいことを実現しやすそうだと思い、日立を選びました。

では今になってもなぜいるのかと言うと、クラウドエンジニアが少ない中でもクラウドの案件がますます増えていて、相当な経験を積めるからですかね。周りを見渡しても、この規模でAWS、Microsoft Azure、Google Cloudの全てを駆使しながら経験を積ませていただける環境はないと思います。毎日満足して楽しんでいるので、日立にはまだいます。

――素敵なお話です。今後挑戦したいことは何ですか?

松沢:僕自身、正直分からないです。クラウドが面白い状況はまだ続くと思うのでまだまだクラウドエンジニアとしていろいろな案件へ挑戦していきたいと思っていますが、5〜10年後にはもしかするとクラウド以外のこと、その時々での流行りものを追っかけているかもしれません。ただ一つだけ言えるのは、クラウド以外のことをやっていたとしても、その分野のトップエンジニアをめざしていると思います(笑)

ちょまど:なんだか、未来が動的に作られるというのが面白いですね。実行時じゃないとわからないと言う。

松沢:計画性がないですね、ともよく言われます(笑)

――最後に視聴者の方からのご質問です。現在アプリケーションエンジニアをやっているのですが、インフラやクラウドを勉強する最初の一歩として何をすれば良いですか?

松沢:実際に触ってみるのが、第一歩だと思います。勉強しなきゃいけないと思っているくらいなら、コミュニティの勉強会とかに申し込んで、どのような感じか実際に見てみる、というのが大事かなと思います。悩む前に動くタイプです。

ちょまど:脊髄反射系ですよね。私は、勉強会は同じ教えを共有するオタ友たちの集まりというイメージで、すごく楽しいし、オタクは自分の推しに対して話したがりなので快く教えてくれる方も多いと思います。何かを学ぶのに、勉強会は良いですよね。Twitterでも「隠キャで勉強会参加に抵抗があったけど、松沢さんのお話を聞いて勉強会に出てみたくなった」ってコメントが来ていますね。

松沢:ありがとうございます。あとは繰り返しになりますが、日立はクラウドエンジニアとして経験を積むには最適な環境なので、このタイミングでジョインしていただくのも大歓迎です!

トークセッション②知っているようで知らないプロダクトマネジメントについて

続いてはトークセッション②ということで、書籍『プロダクトマネジメントのすべて』共著者である小城 久美子氏と、日立製作所のLumada Solution Hub(LSH)と呼ばれるDX中核プラットフォーム事業におけるプロダクトマネージャーによる対談内容についてお伝えします。

登壇者プロフィール

小城 久美子(こしろ くみこ)
プロダクトづくりの知見の体系化を試みるプロダクトマネージャー。書籍『プロダクトマネジメントのすべて』共著者であり、日本最大級のプロダクトづくりコミュニティ「プロダクト筋トレ」の主催者。
ソフトウェアエンジニア、スクラムマスターなどの開発職を経験後、プロダクトマネージャーに転身し、現在は主に企業向けプロダクトマネジメント研修講師やプロダクト戦略の仮説検証の伴走を実施している。

斎藤 岳(さいとう がく)
株式会社日立製作所
アプリケーションサービス事業部 Lumadaソリューション推進本部 LSH事業推進センタ センタ長
2001年、日立製作所入社。ミッションクリティカルな大規模アプリケーション開発(メガバンク、生損保、証券系、自動車、流通)や、日立のフレームワーク、DevOpsなどのソリューション企画・開発・ビジネス化などを進めるシステムエンジニア・プロジェクトマネージャー・ITアーキテクトなど、様々な職種を担当。現在は日立製作所が進めるLumada事業においてスピード&スケールでビジネス戦略を加速する、Lumadaのデジタルイノベーションを支える「Lumada Solution Hub」を管掌。

※関連するQiita Zine記事はこちら
ソリューションやノウハウを再利用してDXを加速させる!日立のLumada Solution Hubがめざす世界観とは
※日立製作所が推進するLumada及びLumada Solution Hub(LSH)の概要についての投影資料

トークテーマ①:プロダクトマネジメントとは

――まずはプロダクトマネジメントとは何なのかについて、教えていただければと思います。

小城:私の言葉でお伝えすると、プロダクトを成功させるための活動、それこそがプロダクトマネジメントだと考えています。言葉としてご存知ない方がいるかもしれませんが、普段エンジニアの皆さんがなされていること自体が、プロダクトマネジメントだと思っています。ただ昨今、たくさんのものが作られてきたことで方法論が確立されてきていて、様々な方の失敗などから「こういう風に作ると良いですよ」というものが体系化されてきました。それが、今のプロダクトマネジメントと呼ばれている分野だと言えます。一般的にはこの図にある通り、UXとTechとBusinessによる弁図の交差領域だと言われています。

小城:よく混同されるのが「プロジェクトマネジメント」です。どちらも省略すると「プロマネ」になりますが、全くの別物です。プロジェクトとはプロダクトを改善するための手段で、プロダクト1.0からプロダクト1.1へとバージョンアップするために回すものです。一方でプロダクトマネジメントとは、製品としてどういうものを作るか。どのようなプロジェクトを走らせるべきかを考えたり、いつまでに何をするのかを考えたりするものです。日本では一部、プロダクトマネジメントをされているプロジェクトマネージャーもいるように見受けられるので、混同される一因になっていると感じます。

小城:適切にプロダクトマネジメントされていないケースについては、よくこちらの魚(プロダクト例)の絵で説明しています。様々な人の多様な意見を受けて、あるチームは魚に可愛いお鼻を付け、あるチームは競合で人気のかっこ良いひれを付け、そしてあるチームは陸上にも対応する形で競合との差別化を図ろうとします。プロダクトとして何をめざしているのかが、組織の中でうまくコミュニケーションされていない例として、この“蛇足のだそ君”のような状態が挙げられます。

小城:これに対してプロダクトマネジメントの世界では、「どんな価値を提案するのか?」を考えると表現します。例えばSlackのログイン/ログアウトや画像送信などの機能で考えると、一般的なチャットツールができるわけですが、他ツールとの違いがなく、結果としてユーザーも幸せになりません。そうではなく「価値」が何かを明確にして、例えばSlackでは「同僚との仕事をもっと楽しくしよう!」を軸に考えることで、「スっココココ」という楽しくなるような通知サウンドの実装につながったりします。このように、どのような価値を提案するかを考え、その価値をきちんとユーザーに届けることが、プロダクトマネージャーの仕事です。

小城:こちらの図は、プロダクトを考える上で頭の中を4つの階層で考えましょうという考え方を示しています。

小城:エンジニアは普段、「How」の部分をされることが多いと思います。「How」で作られたアプリケーションが何をもって「良いアプリケーションなのか」を評価するのが、1つ上の「What」の階層で、ユーザー体験などを司る部分に紐つきます。さらに、どのようなユーザー体験が良いかについては、さらに1つ上の「Why」の階層で、「誰のどんな課題を解決するのか」の部分に紐つくと思っています。そして、最上段の「Core」の階層でプロダクトとして生み出すビジョンやミッション、さらには事業戦略の部分を考えます。
プロダクトマネジメントでは、この各階層のFit & Refineを一気通貫で考えられる状態にすることだと言えます。

※先ほどの「Core」がないプロダクトの例である「蛇足のだそ君」については、書籍『プロダクトマネジメントのすべて』(翔泳社)p74を参照

――ありがとうございます、小城さんから直接プロダクトマネジメントのお話を伺えて大変光栄です。ここまでのお話を踏まえて、実際の日立さんの現場ではどんなことをされているのかも教えてください。

斎藤:実は私自身、プロダクトマネージャーになると宣言したのは、つい最近なんです。以前は自身のことをプロジェクトマネージャーと定義して、プロジェクト内でも言っていました。

敢えて私が現在担当しているLSH以外のビジネスをベースにお話しします。私たちのビジネスの大半は、例えば基幹系のビジネスにおいてはお客さまにRFP(Request for Proposal:提案依頼書)を出してもらい、作りたいものをいただいた上で「How」部分をご支援するような形です。そのためプロジェクトを管理するための計画も、必然的に「What」はお客さまがご担当、「How」の検討が弊社中心になる場合が多いです。

そのようなマネジメントをベースにプロダクトマネジメントを進めても、やはり上手にいかないと考えています。LSHはプロダクトマネジメントとして「What」も「How」も両方検討していく必要があり、今回我々の中で工夫しながら進めた体制や考え方を反映した役割分担が以下の通りです。

斎藤:上段の中央にプロダクトマネージャーを設置し、その下に、プロジェクトマネージャーを配置しました。このような縦関係になっている理由は、事業に対する予算を半年ごとに分ける際、それぞれのQCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)を管理する人がプロジェクトマネジメントを行う必要があると思ったためで、有期的な活動をコントロールする役割として分けてみました。

またプロダクト開発とは別に戦略、つまり「What」をプロジェクト内で有機的に考える人たちも必要ですので、図左側にある戦略についてのチームも作りました。拡販については、拡販というキーワードの方が分かりやすいと思ってのネーミングではあるものの、本来はマーケティングの目線も含めた責任を持ったチームとして設置しています。

右側にあるデザインインチームは、いわゆるカスタマーサクセスを実現するべく、技術提案およびコンサルテーションを提供するチームです。テクニカルの部分を含めてデザインをプロジェクトにインすることから、このような名称にしています。

そして直近最も大きく変えた部分は、一番下にあるUXチームです。プロダクトとしてのユーザエクスペリエンスをベースに、プロダクトを育てていくという意識づけから、UIにプラスしてUXを担当するチームとして組成をしました。

プロダクトマネージャーは、ここに記載されている全チームをコントロールする役割なので、シンプルに業務量が非常に増えました。拡販からUXまで仕事の範囲が一気に広がったためとても大変ですが、難しい部分をやる楽しさもあると思っています。これに付随して開発の仕方についても、例えばアウトプットのドキュメントを大幅に変えようとしており、いわゆる「サービスブループリント」のようなものを作ってみようという発想へと変わってきています。

小城:世の中にはプロダクトマネージャーが決めてトップダウンで作る会社と、民主主義的な作り方をする会社に分かれると思いますが、日立さんはどちらの文化ですか?

斎藤:私個人としては後者に寄せたいのですが、会社のLumada事業という冠がついているため、事業戦略、いわゆるトップダウン的なアプローチになると思いますが、方向性を大きく変えることも当然ながらあります。事業という側面から見ても仕方ないと思っていますが、ボトムアップアプローチとしてユーザーの声を聞いて、プロジェクト側がそれを取り込む、アップデートしていくというのは少しずつできるようになってきています。そのため、少しずつ民主主義的な作り方に近づいてきているとは感じます。UXやデザイン以外にも、例えば戦略・拡販のメンバーもお客さまへのヒアリングをしていますし、そこに私自身も直接入ることもあります。課題もありながら取り組んでいるという状況です。

トークテーマ②:プロダクトマネージャーについて

――ずばり、プロダクトマネージャーの仕事の魅力とは何でしょうか?

小城:toCのケースで考えると、人の文化や行動の変化を、プロダクトによって実現することかなと思っています。

斎藤:プロジェクトマネージャーだと1つのプロジェクト管理なのですが、プロダクトマネージャーは1つの会社や事業を運営しているのと一緒なのかなと感じています。プチ経営者のようなイメージです。もちろん、経営のスキルが経営者に比べてまだ十分にあるわけではないのですが、考え方や目線は求められるのかなと思います。

――なるほど。会社もプロダクトと捉えると、経営とプロダクトマネジメントは通じるところがありますね。一方で、プロダクトマネージャーにはエンジニアからなる人が多い印象なのですが、なぜなのでしょうか?

小城:プロダクトマネージャーとエンジニアが普段から近い距離で仕事をしているのは理由の一つだと思いますし、エンジニアのバックグラウンドやITアーキテクトの視点があるからこそできる「良い意思決定」というのもあると感じています。

斎藤:同じく、プロダクトを作る上でテクノロジーは非常に重要だと考えています。エンジニアはテクノロジーに興味のある人がそもそも多いと思っています。昔はITの分野においては、様々な会社がそれぞれ自社の技術を積み上げてきていた時代もありましたが、最近では技術については基本的にはオープンになってきていると思っていますし、追いつき追い越せというマインドをエンジニアの方々は持っていると思います。そして常に学び続ける必要がある世界のため、様々な意味で情報感度が高い方が多いです。そういう意味でも全方位的に意識を向けることが求められるプロダクトマネージャーの業務は、エンジニアの方々は素養という意味でもマインドという意味でも取り組みやすい側面があるのではないかと考えています。

――とは言え、エンジニアからプロダクトマネージャーに任命されたとしたら、正直何からやればいいのかわからないと思います。何から着手すればいいですか?

斎藤:自分の場合、「プロジェクトマネジメント知識体系ガイド」 の世界が一応あるので、マネジメントの目線では改めてそれらがどうだったかを振り返りました。また、もう一つ自分の中でヒントにしたのが、昔担当していたプロジェクトで参考にしたことのあった『アジャイルサムライ−達人開発者への道−』(オーム社)に書かれている「インセプションデッキ」の考え方ですね。エンジニアからすると比較的入りやすい考え方だと思って勉強し直しました。他にも、グローバルチームのトレンドや意見を聞くなどして、組み合わせていったような感じです。本当は体系だったものがあればと思って探したのですがなかったので、そのように進めました。

小城:今のお話に加えて、私は「価値」がものすごく大事だと思っていて、ユーザーはなぜこのプロダクトにお金を払ってくれているのかを解き明かしながら、インセプションデッキをブラッシュアップできたら良いのではと思っています。私の場合、ユーザーさんに会う機会を多くして、その中で上手にいっている人/いっていない人の違いを、価値の切り口で考え直すと思います。

――視聴者の方からのご質問なのですが、良いプロジェクトマネージャー・プロダクトマネージャーとはどのような人なのでしょうか?

斎藤:良いプロジェクトマネージャーは、しっかりとQCDに責任を持ってくれる人だと思います。KPIに責任を持つことが大事だと考えて、必要ならばしっかりとNOを言えることも大切だと思っています。

良いプロダクトマネージャーについては、私自身もまだまだ模索中ですが、プロダクトの成功のために最前列に出られることが大事なのかなと感じます。自分から前に出て仮説を立てて提供できる価値をぶつけて、お客さまにも社内にも語れる。そこに責任を持てる人なのかなと思います。

トークテーマ③:今後のプロダクトマネジメント/プロダクトマネージャーのキャリア

――ITなどのサービス業界では、プロダクトマネージャーは今はまだ少ない職種ですが、今後増えていくと予想されます。そのような状況の中、どのようなことに取り組むべきだとお考えですか?

小城:現在プロダクトマネジメントと言われているのは、現時点で人類が知っているプロダクトの作り方の再現性が一番高い「1.0」だと思うんですよね。守破離で考えると「守破」をした段階だと思うのですが、「離」としてのプロダクトをより良く作るための手法論が、5年後とかに出てくると思っています。だからこそ、現在の手法論がなぜあるのかを考えつつ、今とは全然違うプロダクトマネジメントが5年後にできるとも想定しながら、良いものを作るために必要なものをかいつまんでいただけたらなと思います。

――ありがとうございます。斎藤さんが現在プロダクトマネージャーをされている中で、次の展望としてはいかがでしょうか?

斎藤:私自身も全くどうなるかまだ分からないのです。ただ、現在のSaaSみたいな世界のベースとなる考え方は、クラウド技術が普及する以前の時代からのものづくりでも、持たれていたものだと思っています。ものづくりの基本的な概念や本質的な部分は変わっていないなと。ものづくりの方法論は、その時代のトレンドや方向性にアップデートしていく必要があると考えています。その前提で自分のキャリアが今後どうなるのか考えてみると、プロダクトマネジメントを経験することで、例えばもっと自分自身がUX分野のスキルを伸ばすべきではと思うようになるなど、様々なことに気づいたり、チャレンジできるようになってきていると考えています。このように、プロダクトマネージャーを経験することで、これからのものづくりの方法論に対して改めて向き合い、もしかしたら自分自身が気づいていない自分の好き/嫌い、向いている/向いていないが見つかるかもしれません。私自身、新しい世界にチャレンジしているのかもしれないなと感じています。

――視聴者の方からのご質問です。プロダクトマネージャーは専任で立てる必要がありますか?

小城:私の場合は一人でも余裕がない状態でいつも働いているので、エンジニアとの兼任は大変そうだなと。できれば専任を立てたらいいかなと感じています。
また頭の使い方が全然違いますね。プロダクトマネージャーはだいぶ先のことまで見て考えなければいけない一方で、エンジニアとして考えるときは、今どうやって実装するかの短期的なフォーカスも大事になると思います。全然違う職種だなと感じるので、頭の切り替えに結構なコストがかかりそうです。

――それでは最後に、視聴者の方からのご質問で、ビジネスサイドからプロダクトマネージャーになるにあたってエンジニアの知識はどれくらい必要になりますか?

小城:よくいただくご質問なのですが、いつも「エンジニアとプロダクトに関する議論が十分にできるまでの知識」を持っていれば良いとお伝えしています。私はエンジニア出身のプロダクトマネージャーですが、エンジニアのことを知りすぎて逆に上手に回らないことがありました。知っているが故に、エンジニアに任せるべきところを自分でコードを読んでしまって、結果として回らなくなるみたいな。ですから、プロダクトマネージャーは誰に聞けば一番良い意思決定ができるのかが分かっていて、なおかつ、その人とちゃんと議論ができるということをめざしていただければ良いのではないかと思います。

編集後記

クラウドエンジニアとプロダクトマネージャー、それぞれの解像度がグッと高まった、非常に有意義な時間となりました。中でも両セッションにおける日立製作所のケースについてのお話を伺って、お二人(松沢さん・斎藤さん)とも、ある種「手探り」での取り組みに対して確固たる熱量をもっていることが非常に印象的でした。今回のセッション内容を見てクラウド領域及びプロダクトマネジメント領域に興味を持たれた方は、前半セッションでもお話があった通り、まずは勉強会などに参加してみてはいかがでしょうか。

取材/文:長岡武司


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