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鉄道の完全自動運転へつながる「ダイナミックヘッドウェイ」。日立がデータサイエンスで描く、鉄道サービスの未来とは?

2016年から2017年にかけて、日立製作所はデンマークの無人運転地下鉄「コペンハーゲンメトロ」で「ダイナミックヘッドウェイ」の実証実験を実施しました。「ダイナミックヘッドウェイ」とは、データサイエンスの活用により乗客の需要を予測し、列車の運行間隔を調整したダイヤ計画をオペレータに提案するソリューションです。柔軟な計画変更により、混雑緩和など快適な輸送の実現と鉄道事業者の運用効率向上をめざしています。

そこで、今回は「そもそもダイナミックヘッドウェイとは何か?」「なぜコペンハーゲンで実証実験を実施したのか」といったことから、今後のデータサイエンス技術の進化と鉄道サービスの未来まで、日立製作所 社会システム事業部の大塚理恵子氏と狩集美智氏にお話を伺いました。

プロフィール

大塚 理恵子 (おおつか りえこ)
株式会社 日立製作所
社会ビジネスユニット 社会システム事業部
交通情報システム本部 交通システムエンジニアリングセンタ チーフプロジェクトマネージャ
大学でインフォグラフィックを学び、2003年に日立製作所入社。研究開発部門に所属し、ヒューマンインタラクションの研究等に従事。およそ10年前から交通分野のデータ分析関連の研究に携わるようになり、1年半前に社会システム事業部に異動した。データを利活用した人流の解析・予測で鋭い洞察力と手腕を発揮している。

 

狩集 美智 (かりあつまり みち)
株式会社 日立製作所
社会ビジネスユニット 社会システム事業部
交通情報システム本部 交通システムエンジニアリングセンタ 主任技師
大学時代は多国籍企業論を専攻。2005年日立製作所に入社し、電力関連の営業部門で電力設備のタービンから情報・通信データセンタ付随システムまで幅広く担当し、2010年経営企画室に異動。2012年に、AIやデータサイエンスなど新技術を利活用しながら海外事業を積極的に推進する交通情報システム本部の姿勢に惹かれて参画。主に海外市場における鉄道情報システムの事業開発に様々な社内スキームを駆使しながら携わり、グローバルに活躍している。

「ダイナミックヘッドウェイ」とは

――日立は、デンマークの無人運転地下鉄『コペンハーゲンメトロ』で「ダイナミックヘッドウェイ」の実証実験をされたということですが、これはどのようなソリューションなのでしょうか?

大塚:一言で申し上げると、乗客の需要に応じて、その日の列車の運行間隔を調整するダイヤ計画を自動的に作成して、運行管理オペレータに提案するソリューションです。

――ダイナミックヘッドウェイは世界初の試みで特許も取得していると報道で知りました。実証実験の計画はいつ頃からはじまったのですか?

大塚:「こんなことができたら」という構想は昔からあったと思いますが、実証実験に関する計画が日立社内で、具体的に立ち上がったのは、私の記憶では2016年の秋頃です。当時の本部長から、コペンハーゲンに実験システムを設置したいので半年間でなんとか作ってほしいと依頼されました。

――半年間ですか! それは一般的なシステム開発と考えても、短い期間ですね。

狩集:かなり短いです。日立では、研究開発から商用化にあたってのハードルが高いので通常は年単位で時間がかかります。実証実験だと一気に加速することはありますが、半年は短かったですね。

――日立には技術の蓄積があり、そういったものを活用・転用できたから半年でできたのですか?

大塚:一部の技術は、過去の資産を活用しました。もちろん、今回の実証実験の仕様に合うように、変更やインテグレーションをする部分は、新たに作らなければいけませんでしたが、実験システムの構成については比較的、早い段階で決めることができました。

――「ダイナミックヘッドウェイ」の技術が社会に実装されると、どんな社会課題に影響を与えていくと思いますか?

大塚:やはり、最近だとCOVID-19の対策に有効ではと考えます。交通機関の利用者は日々、変動しているため、需要予測とダイヤ調整によって、列車が混みすぎないようなダイヤを提案することができるといいなと思っています。

長い目で見ると、交通インフラの維持があります。地方では鉄道が廃線になると、過疎化が加速すると指摘されています。そうならないように、乗客の需要と交通事業者の輸送力との適切なバランスを支えることができるような技術として進化させていきたいです。

――コペンハーゲンメトロは無人運行ですが、ダイナミックヘッドウェイを実装するのは無人鉄道のほうが適しているのでしょうか?

狩集:必ずしも無人がいいというわけではないです。ただ、「ダイナミックヘッドウェイ」の先にあるのは鉄道事業サービスそのものの全自動オペレーションです。先日も自動車の自動運転がレベル3になったなど話題になっていますが、日本の鉄道もフルオートオートメーション化の方向に進んでいます。

24時間365日、自動運転をしているコペンハーゲンメトロで実証実験ができることはとても魅力的であり、データのリッチさが違うという認識は事前からありました。

今後、日本国内に展開していく際には、中央指令とネットワーク末端の流れを可視化、自動化した輸送サービスを提供していくのがコアだと考えています。

――今回の実証実験は、近い将来、交通のフルオートオートメーション化を実現するための第一歩としての意味合いが強かったのでしょうか?

大塚:そうですね。第一歩としての位置づけだったと思います。

なぜ、コペンハーゲンメトロ(デンマーク)で実証実験を実施したのか

――さきほど、2016年秋に依頼があり、実証実験の準備がはじまったと伺いましたが、コペンハーゲンメトロに何か問題があって実証実験につながったのでしょうか?

狩集:当時、コペンハーゲンメトロは2019年に新たに環状線を開業するため、既存路線、新線を含む周辺地域を含めて移動需要が大きく変わると予想していました。また、電車のオペレーションを担っていた会社「アンサルドSTS(現・日立レールSTS。以降の記載も当時の名称を使用。)」は、2018年に契約更新の時期を迎えており、新たに付加価値を加えて受注金額の増加をしたいとの期待感を持っていたんです。

大塚:そのため、オペレーションの契約更新に向けて差別化要素を加えたいという目的とも合致し、ダイナミックヘッドウェイの実証実験がフォーカスされました。

表内の情報は実証実験当時のものであり、2020年12月現在、コペンハーゲンメトロは4路線を有し、24時間365日運行されている。

――ここまでのお話からすると、新しい付加価値を模索していたコペンハーゲンメトロ側と、ダイナミックヘッドウェイの実証実験サイトを探していた日立のニーズが一致したということだったんですね。

狩集:そうです。この計画がはじまる前からアンサルドSTS社がコペンハーゲンメトロと非常に良好な関係を10年以上にわたって続けていたことも大きいですね。コペンハーゲンメトロは、24時間365日運行していて、路線の高低差が大きいこともあり、安定稼働が難しい地下鉄です。乗っていただくとわかるのですが「ジェットコースターみたい」と私たちは話していました。

――線路に高低差があると、車両に負荷がかかって故障も多くなり、24時間365日運用するのは大変そうです。それがコペンハーゲンメトロ側の課題のひとつになっていたということですか?

狩集:車体と線路などが摩耗することに悩んでいました。車両にはパフォーマンスレベルというギアが10段階あって、1が一番速いとすると1と2ばかりを使っているんです。ピークタイムにスピードを上げていたため、車体を含む設備摩耗が早くなっていました。

大塚:さらに、コペンハーゲンメトロ側としては、夜間にはもっと運行本数を減らせないかという課題感を持っていて、ここに日立の予測・シミュレーション技術がマッチしたことになります。

――夜間の電車の運行を1本でも減らせたら、保安員の作業時間が延び、安全が確保できるメリットもありますね。ところで、アンサルドSTS社と日立は古くから関係があったのでしょうか?

狩集:以前、アンサルドSTS社は競合でした。海外で入札のプロジェクトに行くとよく見かけましたね。これには鉄道はもちろん、システム側も業界再編が激しいという事情があります。

――実証実験の起点は、コペンハーゲンメトロから日立に相談があったからですか?

大塚:いえ、日立側から実証実験をさせてくださいとお願いする形で、アンサルドSTS社と日立が一緒になって提案しに行きました。そして、コペンハーゲンメトロに受け入れていただいた、という経緯ですね。

――アンサルドSTS社の技術と日立の技術を掛け合わせて、新しいことにトライしようという流れだったのでしょうか?

狩集:そうです。アイデア勝負という面もありますし、スクラッチで開発すると商用化までに2~3年くらいかかることもあり、ここを飛び越えていく必要があります。となると、他の会社と組んで技術を組み合わせるか、技術を持つ会社をM&Aしたほうが早いわけです。

――業界の流れや変化が激しいので、M&A等で新チームを作って対応しないと勝負が厳しくなるということでしょうか?

狩集:データは「取ったもん勝ち」の面がありますから、少しでも早くシステム化して、データ収集側に回らなければなりません。先手必勝ですよね。なので、いかにスピードを出してシステム化に乗り出すかというのが日立側の課題になっていました。

大塚:それもあり、ダイナミックヘッドウェイの実証実験についても、乗客の需要データを取り扱う部分は、とにかく半年以内に開始という目標が設定されました。

――日立ではM&Aを積極的に行って、新しい技術開発に挑戦するチームづくりに力を入れているんですね。

狩集:事業本部によりけりですが、鉄道のチームは動きが早いという印象を持っています。私が所属するITセクターもさまざまな事業提携を繰り広げています。実際に鉄道業界は、業界再編やM&A、投資に関しても意思決定のスピードが速いですね。

――ところで、アンサルドSTS社にはどんな技術があったのでしょうか?

狩集:アンサルドSTS社が得意とするのは、すべてのオペレーションをまとめるシステムインテグレータとしての力と、信号システムとそれに付随する運行管理です。無人運転の技術も有していました。

両社が持つ技術がダイナミックヘッドウェイを実現させる

――そんなアンサルドSTS社と日立が組むことで、新たなシナジー生まれることが期待されたのですね。

大塚:制御系のソリューションが得意なアンサルドSTS社側から見ると、日立が持つ、人流(人の移動需要)を見える化する技術や、需要に応じた効率的な計画をたてる技術を取り入れることで新たなシナジーを生み出せる可能性がありました。それを試行するビークルとしても、コペンハーゲンメトロの実証実験は良い機会だった、という構図です。

準備段階から考慮した、実証実験における「技術的課題」とは?

――今回の実証実験における大塚さんの役割と、どのような開発を行っていたのか教えてください。

大塚:私が担当していたのは、乗客の需要予測です。何のデータが、どんな間隔で入手できるのか、データをどう処理し、どういう形で予測結果を出力するのか、といった全体の設計と開発、特許執筆を担当しました。半年間で全てを完了しないといけなかったため、なかなかハードでした。

ダイナミックヘッドウェイ実証実験の第一ステップの範囲

――かなりマルチにやらなければならない状況だったんですね。事前情報で大塚さんが一部の人から「予測の女王」と言われていると伺ったんですが…。

大塚:そんなことはないです(笑)でも、最近は交通関係の混雑予測関係の仕事に携わることが多いのは事実ですね。

狩集:私はそう思っています(笑)今、データサイエンティストやデータエンジニアのニーズが高まっていますが、同じようなスキルセットを持っていたとしても、人によって雑多なデータに対しての“目の付けどころ”は大きく異なります。トレンドの分析でも、バタフライエフェクトではありませんが、データの起点と終点がどうつながっているのか、因果関係を見つけ出すセンスが大塚さんは違います。

大塚:この分野の研究を長くやっているため、多少のノウハウはあります。研究者として、新しいプロジェクトに参加するからには、これまでとは違うデータを扱ったり、違う技術を取り入れたいという視点で取り組みたくなりますので、今回のコペンハーゲンメトロの実証実験も、そういう気持ちで挑戦しました。

――今回は、どのような技術をお使いになられたのでしょうか?

大塚:24時間365日運行している鉄道ですし、コペンハーゲンは日本から遠いため、実証実験期間中の不具合発生時の対応に関する懸念が最初に頭に浮かびました。そのため、堅牢なシステムにすることが重要と思い、これまでに試した経験のある技術や長時間稼働した実績のあるプログラムを最大限に活用していくことを考えました。センサデータをオンラインで取得し、実証実験システム内に蓄積していく部分の処理も現地に行くまで疎通確認ができなかったのですが、様々な状況を想定し、とにかくデータを溜められることを最優先条件として考えました。

――今回は堅牢なシステムで、いかに確実にデータを取り続けられるかがポイントになっていたのですね。

大塚:予測手法についても不具合発生時のリスクを考えて、なるべくプリミティブなものを使いました。実証実験の終了期間も決まっていませんでしたし、頻繁に現地に行くこともできないため、ある程度、放置しても問題が起こりにくい作りにしました。

――必要最小限のところで最大の効果が出るようなことをイメージされたのでしょうか?

大塚:そうですね。事前に数年間分のサンプルデータを見る機会があり、季節変動の大きさに愕然としました。北欧では、夏は自転車で移動する人が多いため、夏になると利用者が半分以下に落ちるんですよ。

――半分以上も差があるとは驚きです。季節変動が激しいということは、データを取ることを止めるわけにはいかないですし、予測も難しいものがありそうです。

大塚:季節変動が大きいということは、用いる予測手法によっては、季節ごとにモデルを用意し、切り替えるなどの工夫が必要になりますし、それだけ、システムも複雑になっていきます。

狩集:付け加えると、コペンハーゲンメトロには季節別のダイヤはありませんでした。平日と週末、祝日と3種類くらいしかないんです。そのため、用いる予測手法の精度が鍵を握っていたとも言えます。

――そういった意味では、コペンハーゲンメトロはダイナミックヘッドウェイ実証実験には最適な場所だったのですね。

大塚:技術的に見ると、国内の交通移動とは明らかに違う傾向が見えて、とても面白かったですね。

――実証実験プロジェクトで、狩集さんはどのような役割を担っていらっしゃったんでしょうか?

狩集:最終的に日立側のプロジェクトマネージャとして全体の運営に関わっていたのと、交通情報システム本部のダイヤ作成の商用化にどうつなげられるかを仕様面で検討するビジネスアナリシストとしての二つの顔を持っていました。

プロマネとしては、数十年にわたってスケジューリング技術を研究している横浜のシステムイノベーションセンタをはじめ、いくつかの研究所を束ねていました。結果的に日立の研究所がそろい踏みしたような感じでしたね。

――仕様面を検討するビジネスアナリシストとして、ダイヤの最適化面に取り組まれていたのですか?

狩集:特に顧客側に対して、「ダッシュボード」と呼ばれる、走行距離やCO2の排出量、混雑緩和の状況等をまとめた成績表を作らなければならなかったので、成果を集約するという位置づけで実証実験の全体を指揮してまとめていた感じです。

――プロジェクトを進める上で障壁となるようなことは何かありましたか?

狩集:もう…たくさんありました(苦笑)供給するダイヤを最適化すると言っても、「最適化」は非常に抽象的な言葉です。さきほどのCO2排出量や走行距離、車両ダメージなど、さまざまなKPI(Key Performance Indicator)のバランスが取れていて、それがオプティマイズ(最適化)されたダイヤであることを内部パートナーのアンサルドSTS社及び顧客側へ立証するのが大変でした。「そのダイヤはベストなのか、ベターなのか」といつも聞かれました。

――何かをやれば、他の要素が犠牲になることは避けられず、その部分を必要なコストと考えるのか、損害と考えるかで評価は全く異なってきますね。

大塚:結局は定義次第ではありますが、日立側だけで勝手に定義して決めるわけにはいかないので、プロジェクトマネージャとして狩集さんが苦労されていた姿が印象に残っています。

――すべてがポジティブな結果になるように調整をするのはかなり骨が折れそうです。

狩集:まず、輸送効率と需要変動に同時に完全に応じるのは実現不能ということがあります。言い方が悪くなりますが、輸送効率をまず最大限に重視するなら、車両や人員配置などを最小限のリソースにして、乗客を乗せられるだけ乗せてしまえばいいんですね。

いわゆる「すし詰め」で輸送すれば売り上げは最大化されますが、お客様の満足度や輸送の価値は反比例します。そういった需要に応じながら、輸送効率をどれだけ担保して需要変動への供給バランスを取るかといったことを探りながら調整していました。

――技術的にもそこが最もポイントになりそうですね。

大塚:そこで、人流など需要予測だけではなくて、待ち乗客数の総和が減っていることを確認しながら、輸送効率も考慮して計画を作っていくことになりました。

ダイナミックヘッドウェイ実証実験でわかったこと

――ここまで伺ってきた課題をクリアされて、2017年秋に実証実験を終了されたということでしょうか?

狩集:2017年の10月に需要予測に応じたダイヤ修正計画のデモンストレーションをしています。ここまでが「フェーズ1」で、それに応じたダイヤの最適化を実際に行い変更ダイヤで実際に列車走行を行うことは「フェーズ2」と呼ばれていました。ちょうど「フェーズ1」と「フェーズ2」の間で実証実験プロジェクトは一旦終了しています。現在、コペンハーゲンメトロは環状線の開業を迎え元のシステムで運行されています。

――ダイナミックヘッドウェイ実証実験の結果をどのように評価されていますか?

狩集:リッチなデータが取れたことは大きいですね。今も研究所でコペンハーゲンのデータを使って次の技術検討に活用しています。

大塚:データとノウハウが得られたので、国内外に新たなソリューションを提供するための技術開発を継続している状況です。

――実証実験で得られた鉄道インフラのデータは希少性がとても高いということですね。

大塚狩集はい

大塚:研究のための交通移動データは、オープンデータ化も進んでいますし、場所によっては加工されたデータを購入することも可能ですが、やはり、生のデータは価値が違います。

狩集:その点、日立にはIoT事業への強力推進を背景にニッチかつリッチなデータが揃っているので、宝探しの感覚を持っている好奇心旺盛なデータサイエンティストやエンジニアには魅力的に見えるかもしれませんね。

――ダイナミックヘッドウェイの開発は、先ほど伺った「フェーズ2」に入っているということでしょうか?

大塚:当初、考えていた「フェーズ2」そのものではありませんが、実証実験で得た資産を使いながら、これからの時代にあった形へと進化させているところです。

狩集:最適化したスケジュールは、実証実験のときは混雑緩和を最優先として単案しか出せませんでしたが、今は複数案を出す方式を研究開発しているところです。現在世界の輸送需要は大きく変化しています。この需要の変化に対応した、ダイヤの複数最適化技術を次につなげていこうと考えています。

――ダイナミックヘッドウェイは、今後はニューノーマル時代へ対応し、複数最適化技術を含んだものへと進化していくということですね。

大塚:日立は「ダイナミックヘッドウェイ」だけでなく、様々なオペレーションや情報提供方法を動的に変えていく方向をめざしています。

狩集:複数案を出すことのポイントは、単案出しにスジ屋と呼ばれるダイヤ作成者や当日の指令員ノウハウを凝縮することだけではなく、複数案出しでの教師データ創出とその学習効果からAIにアプローチすることにあります。スケジューリング技術は、属人性の高い経験やスキルなどをデータ化して取り込み、最終的にAI技術を活用して中央司令を全自動化する方向に向かっています。

データサイエンス技術の進化と鉄道サービスの未来について

――「ダイナミックヘッドウェイ」のような予測技術は社会的に需要が高いと思います。花火大会などのイベントの混雑予測などにも応用可能でしょうか?

大塚:コロナ禍以前まではイベントがあれば人が殺到するといった状況になることが度々、ありました。そうならないように事前に対策を施していくことも重要ですし、それでも当日、人が集中してしまった時に、ダイヤを調整することで、多少なりとも混雑を分散させることができる、そのようなソリューションになると良いなと思っています。

――事前に分散させることまで考えるとは、もう二歩先、三歩先を行っている状況ですね。

大塚:需要予測の活用先としては、鉄道のダイヤ計画だけではなく、事前の対策立案や乗客への情報提供にも利用できます。また、実績を分析することで先ほども話に出た車体や線路のメンテナンス分野の分析にも使えるはずです。

今、移動需要の予測やシミュレーション技術を幅広いソリューションに適用することを目的として、研究を進めています。混雑緩和だけでなく、より幅広く使える共通的な技術に育てていきたいと考えています。

狩集:「鶏が先か卵が先か」といった意味合いで、予測技術で事前に情報配信などをして、人の行動を変えるアプローチと、実際の結果がどうつながっているのかを探ることで、予測の可能性が広がると考えています。

さらに、掛け合わせとして「予測技術✕メンテナンス」「予測技術✕輸送」「予測技術✕ダイヤ計画サービス」といったように、『予測』は今後の変容する業務オペレーション上でも大きなキーワードになっていくと思っています。

――日立グループ全体で鉄道や道路などチャネルも多く、ソリューションも莫大にあるので、掛け合わせられるものは豊富にありそうです。

大塚:私が研究所にいた頃には、相互のソリューションの組み合わせをしていました。道路系も「混雑」という問題を抱えているので、自動車とバス、鉄道を合わせて、東京全体の交通需要予測をしてみたらどうか、と言われることも多いですね。

狩集:研究所の方々は横軸での連携もして、業界関係なく道路の技術が鉄道にどう転用できるかといったことを考えています。日立全体として、ビジネスユニットや事業本部も、横串の動きをしていかないといけないと思っています。縦ではなく横の展開を増やして、螺旋のような形で上がっていけるのが理想です。

――ありがとうございます。最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

大塚:現地に足を運ぶと新たな発見があります。研究開発も大切ですが、現地に行くのも研究者としては大切なことではないでしょうか。

プロジェクトの前に事前にデータは見ていましたが、現地に行って初めて分かることもたくさんありました。そもそも駅に改札機がないことや、自転車をそのまま持ち込んで電車に乗る人が多いことがわかり、興味深かったです。そのような現地調査をふまえて、プロトタイプに改修を加えることもできました。

――当然、データは大切ですが、やはり実際に現地に行ったほうがいいということですね。

大塚:行ったほうがいいですね。それと今回のプロジェクトには当初、研究部門の研究者として加わりましたが、今は事業部にいるので、その立場から言うと、研究部門と事業部門との連携は、これからますます重要になってくると考えています。日立が社内の人財交流に力を入れているのは良いことだと実感しています。

狩集:おそらく、10年前でしたら大塚さんと私は同じ日立にいても出会っていなかったのではないかと思います。その2人がコペンハーゲンで出会って、研究部門と事業部門との連携として実証実験をともに取り組んだたことが、「新しい日立」を象徴する出来事だったと感じています。

日立は伝統を大事にしながら、今、変わっていこうとしています。そんな日立に好奇心を持ってくださるデータサイエンティストやエンジニアの方に、ぜひ門戸を叩いていただきたいです。

編集後記

乗客の需要に応じて列車の本数や運行間隔を自動的に調整する日立製作所のダイナミックヘッドウェイ技術は、コペンハーゲンのような都市部の交通を便利にするだけでなく、日本の地方を支えている交通インフラを維持し、過疎化を防ぐための解にもなります。

人財交流にも力を入れている日立の「攻め」の姿勢に共感された方も多いのではないでしょうか? 今回の取材を通じて、予測技術がより汎用的なものへと発展することで、さらに多くの社会課題が解決できることに大きな期待を感じることができました。

取材/文:神田 富士晴
撮影:AtoJ


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