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国内のマイグレーション、モダナイゼーション案件が集まる日立製作所が始めた「ポータル」プロジェクトを探る


2018年に経済産業省が発表した「DXレポート」にて提示された「2025年の崖」を克服すべく、各企業がDXに向けた取り組みを本格化させてから5年近くが経過し、あらゆる業種業態においてDXプロジェクトの推進が続けられています。

中でも、推進の大きな足枷となっているレガシーシステムを刷新するためのマイグレーション(以下、マイグレ)やモダナイゼーション(以下、モダナイ)の実施は、巨大化した複雑な基幹システムを持つ大企業を中心に、ますます活性化している状況です。

今回は、そんなマイグレ・モダナイに向けたソリューションを数多く担ってきた株式会社 日立製作所による、同領域における新しい取り組みについて取材しました。同社では、グループ内各所で蓄積されてきた様々なマイグレ・モダナイに関するナレッジなどを集約し、さらに業種横断で全社的に共有することによって、グループ内のメンバーが効率的に情報を参照し、必要に応じて試行できる環境の整備を急ピッチで構築しているとのこと。

そのようなマイグレ・モダナイに関する社内ポータルの構築(以下、マイグレ・モダナイポータル)について、プロジェクトに関わっているエンジニア2名にお話を伺いました。

プロフィール

中村 知倫(なかむら とものり)
株式会社 日立製作所
デジタルエンジニアリングビジネスユニット アプリケーションサービス事業部
共通技術統括本部 アプリケーション共通技術統括部 部長
2005年、日立製作所に新卒入社。入社から一貫して、日立アプリケーションフレームワーク「Justware」の製品開発及び技術支援に従事。それ以外にも、Justware AIアプリケーションフレームワークや統合開発プラットフォームなどの開発を経て、現在はLumada Solution Hubのマイグレーション・モダナイゼーション社内ポータルの開発/取りまとめなどを担当している。

 

乾 広二(いぬい こうじ)
株式会社 日立製作所
デジタルエンジニアリングビジネスユニット アプリケーションサービス事業部
共通技術統括本部 アプリケーション共通技術統括部 主任技師
2007年、日立製作所に新卒入社。入社後は金融向けシステムの開発に従事し、Justwareを使う側であったが、2015年にJava EE 7に対応したJustwareを開発する際に、現在のアプリケーション共通技術統括部に異動。その後、2年ほどクラウドビジネス推進センタでマイクロサービス関連のプロジェクトに従事し、2022年に現在の部署に異動。

Lumada Solution Hub上で展開されるマイグレ・モダナイポータル

――まずは、おふたりが現在取り組んでいらっしゃるマイグレ・モダナイポータルの概要について教えてください。

中村 : マイグレ・モダナイポータルをご説明する前に、先にその母体となる「Lumada Solution Hub」について簡単にご紹介させてください。
Lumada Solution Hubは、業界の垣根を越えて、日立グループで培ってきたソリューションやナレッジ、ユースケースなどのアセットを蓄積、共有、活用するための仕組みです。

中村 : このLumada Solution Hubの中で、マイグレ・モダナイに特化したソリューション・サービスがマイグレ・モダナイポータルで、本ポータルは主に日立グループ及びパートナーさま向けのソリューションです。

もともとLumada Solution Hub上に、マイグレ・モダナイに関する各種情報も登録されていましたが、この領域へのご相談が急増していました。そこで、すぐに閲覧できるよう、マイグレ・モダナイ情報をひとまとめに集約し、シンプルで分かりやすいデザインにした方がいいのではと考えました。
閲覧者は、プロジェクトの全体像から細部のToDoまでの情報を把握できるので、業務効率が向上するかと思います。

――主に日立グループ及びパートナーさま向けとのことですが、どういうシーンで活用される想定のポータルなのでしょうか?

中村 : 現場で日々お客さまと向き合っているSEメンバーを中心に、ノウハウ・ナレッジを検索したり、実際のマイグレ・モダナイ試行環境を操作できるようにしています。もちろん、日立グループ及びパートナーさま向けと申しましたが、お客さまも一緒にご利用いただくことも可能です。

――なるほど。ここ最近でマイグレ・モダナイへの引き合いが増えているとのことで、やはりDXの必要性に付随して市場全体が拡大しているということですね?

中村 : そうですね。市場全体を俯瞰して見ると、マイグレ・モダナイ市場は非常に高成長*¹で、製造・流通や金融を中心とした大企業からの需要も多くなっています。
その中で日立は、インフラストラクチャ・ミドルウェア・アプリケーション・デジタルエンジニアリング・システムインテグレーションまで一気通貫でソリューションをご提供でき、メインフレームを含む基幹系システムや顧客業務への深い理解やグループ全体でのシナジーを発揮できることなどの強みを持っています。そのため、マイグレ・モダナイへのご提案力及び体制の強化と併せて、今回のマイグレ・モダナイポータルの構築を進めているというわけです。

*¹ 経済産業省の「DXレポート(2018年)」では、国内企業のDX課題が解決できず放置されてしまった場合、2025年以降に最大12兆円の損失が出ると予測されている

――この領域は競合も多いと思うのですが、お客さまからはどのような形でご相談をいただくことが多いのでしょうか?

中村 : 様々なケースがあるのですが、ここ最近で増えているのは、他ベンダーさまによるプロジェクトの第1段階を終えて「あまりうまくいっていないので全体を見直してほしい」というご相談です。最初の設計次第で後続の段階へと進むにつれて課題が増え、結果としてコストや工数も増大していくことになるため、早い段階で見直したいというお声がけが増えてきている印象です。

モダナイゼーションの中でも引き合いが増えているシステムのマイクロサービス化

――マイグレ・モダナイにもレベルのグラデーションがあると思うのですが、具体的にはどのように整理されてポータルを構築されているのでしょうか?

中村 : GartnerやAWSが提唱する移行戦略を参考に日立が定義した7Rから、「Rehost(リホスト)」「Revise(リバイス)」「Rearchitect(リアーキテクト)」「Rebuild(リビルド)」の4つについての情報を集めるという形にしており、これらを独自の形で3つにレベル分けして整理しています。

中村 : 「Rehost」と「Revise」は、どちらかと言うとあまり変更を加えずに移行していくという考え方なので、これをマイグレーションと捉えてレベル1としています。一方で「Rearchitect」と「Rebuild」は、より最新化/クラウド化させていくということでモダナイゼーションと捉えてレベル2及びレベル3としています。

――マイグレとモダナイ、それぞれ似たような概念なので切り分けが難しいと感じます。

中村 : おっしゃる通り、厳密に「ここまでがマイグレーション、ここから先はモダナイゼーション」という切り分けは難しいと思いますし、言葉だけを切り取ってもあまり意味はないと思います。

マイグレーションの対象となる最も古いシステムの一例は、いわゆるメインフレーム上に乗っているCOBOLのような古い言語で作られているアプリケーション群ですね。それらを段階的に最新化していくということで、メインフレームからオープンサーバーへの移行からはじまり、COBOLからJavaへの変換などを進めていくことが考えられます。もちろん、Javaに関しても古い技術になってきているので、ここをより最新化していったりフレームワークだけを変更していくというのも、マイグレーションと捉えています。

一方でモダナイゼーションにも、様々な切り口があると思いますが、例えばフロントエンドはSPA(Single Page Application)で作っていき、クラウドネイティブな形にしていくというのが、代表的なモダナイゼーションの入口かなと思っています。さらにその先として、業務アプリケーションの部分を変更しやすくするという観点で、マイクロサービス化していくところも、モダナイゼーションの範囲と考えています。

――マイクロサービス化は、ここ数年で特に注目されている印象です。

乾 : そうですね。多くのお客さまでは従来型のモノリシックなシステムを利用されているのですが、システム全体が巨大かつ複雑になっているがゆえに、何か変更を加えようとしても、影響範囲が広すぎて保守コストが膨れ上がってしまっているという課題があります。ここを抜本的に解決するために我々からご提案しているアプローチの1つが、システムのマイクロサービス化になります。

マイクロサービス化については、日立では「マイクロサービステクニカルソリューション」という、モノリシックなシステムからマイクロサービスアーキテクチャーへのシフトを支援するサービスを提供しており、コンサルティング業務は本サービスの中で実施しています。私はその先にある実装の部分を担当しています。

――具体的にどのようなことをされているのでしょうか?

乾 : マイクロサービスに関する日立の取り組みには様々なものがあるのですが、私は「Justware マイクロサービスフレームワーク」*²というアプリケーション開発を支援する製品を開発しています。この製品は「Hitachi Microservices Platform(HMP)」という製品と連動して、マイクロサービスのアプリケーションに求められる、サービス間通信や分散トレーシングなどの機能を簡単に実装できるような機能を提供しています。

ちなみにHMPの方は、アジャイル開発やクラウドを駆使した開発を得意とする日立グループ会社の米GlobalLogicで用いられているマイクロサービスのフレームワークを、日本向けに整備・強化したものになっています。

難度の高いマイクロサービスの導入検討から構築・運用までワンストップで支援する製品やサービスを提供しており、最適な製品・サービス群を自由に組み合わせて利用できるようになっている

*²Justwareシリーズは、日立が長年の大規模ミッションクリティカルシステム開発で培った技術とノウハウを集約したフレームワークや開発支援ツールなどの製品・サービス群として、業種を問わず幅広い分野で活用されている。その中の1製品である「Justware マイクロサービスフレームワーク」は、上述の技術/ノウハウに加えて、マイクロサービスの開発・運用に関するノウハウをベースにしたエンタープライズ向けのマイクロサービス開発専用のフレームワークとなっている

――マイクロサービス化と聞くとなかなかに難度が高い印象なのですが、どのようなところにハードルを感じることが多いですか?

乾 : よく出てくるのは、組織論の話ですね。マイクロサービスという開発手法では、各サービスが自律的に動けるように、小さい組織でそれぞれの開発を進めていくことになるのですが、そこについてはお客さまの組織文化に関わってくる部分になるので、なかなか難しいなと感じることが多いです。

――たしかに組織文化と開発手法の相性の問題もありますよね。せっかくなので、マイクロサービスの導入でよさそうな成功事例があれば教えていただければと思いますが、いかがでしょうか?

乾 : 先ほどお伝えしたHMPとJustware マイクロサービスフレームワークは2022年11月にリリースしたものなので、これら製品の成果としてお伝えできる事例などはまだ公にできないのですが、それ以前からマイクロサービスの案件に取り組んでおり、実績及びノウハウをためてきています*³。

ニュースリリース:2022年9月30日:日立 (hitachi.co.jp)

バーチャル組織を設けて、社内各所に散らばるナレッジを集約

――今回のマイグレ・モダナイポータルは、どのようなチーム体制で構築を進めているのでしょうか?

中村 : プラットフォームの基盤部分は、Lumada Solution Hubの開発をしているメンバーと一緒に構築を進めています。一方でそこに乗せていくナレッジなどの情報については、日立の中の幅広い部署に散らばっているので、それぞれを担当している方々とつながって一種のバーチャル組織を作り、それぞれの内容を共有してもらう形で進めています。
開発と各部署の専門部隊の間に入って調整しながら進めているのが私になります。本務としては、あくまで先ほど出てきたJustwareの開発と保守の取りまとめになるのですが、こちらのマイグレ・モダナイポータルの推進も副務として担当しているということです。

――なるほど…相当お忙しいですね。マイグレ・モダナイポータルについて、エンジニアとして魅力に感じる点なども、ぜひ教えてください。

中村 : いくつかの案件を進める中で、例えばCOBOLからJavaへの移行について検索エンジンや書籍で調べようとしたら、結構な負担になると思います。このように個々にやっていかなければならないところを、ポータルを通じてポイントを絞って集約的に検索・チェックできることで、全体の工数/負担としてはだいぶ軽くなるのではないかなと感じています。

また、試行環境を用意して実際に動くものを見ることができる点も、個人的には魅力だと感じています。というのも、例えばお客さまにご提案するシーンを考えてみると、自分たちのソリューションを紹介するのに資料ベースだと、なかなかイメージしてもらえないケースもあったりします。実際の試行環境を動かしてツールを見ていただくことで、よりお客さまの納得度も高まり、我々としても説明しやすいと考えています。

乾 : 自分たちの製品をいかに紹介するかとか、いかに社内のメンバーに見つけてもらうかが、結構難しいなと感じています。今までもナレッジそのものを乗せていくような先はあったのですが、より「見つけやすい」形で情報を探している人にとってメリットのあるポータルになっていると思うので、専門的にやっている自分としてもぜひ、早く動き始めてほしいなと感じています。

――プラットフォームとしての「めざす姿」についても、中長期的なところを教えてください。

中村 : 国内での拡大に関しては、グループ内にあるソリューションの情報を全て集約できたわけではないので、そこをまずは引き続き継続していく予定です。
また、マイグレ・モダナイに関わった人が自由に登録できる仕組みや、本ポータル上で有識者とやりとりできる基盤を作れないかと計画している段階です。

多様なお客さまとメンバーがいることが最大の強みであり魅力

――おふたりのキャリア観についても伺いたいです。

乾 : この先もずっとマイクロサービスをやっていくかどうかは分かりませんが、モノを作るというところでは引き続きやっていきたいと考えています。何を作るかは時代に合わせて変わっていくと思いますが、マイクロサービスは特に広い範囲での知識や経験が必要になってくるので、フルスタックの能力が求められるという点で非常に面白いなと日々感じています。使っている技術に関する知識は自分が一番だ、という自負を持ってやっています。

中村 : このマイグレ・モダナイポータルの取りまとめをして、改めて、日立には様々な技術を持つ方がいるなと感じています。そういう専門的な技術や知見を持つ人たちをうまくつなげることで、お客さまのマイグレ・モダナイを効率的に実現できるようにしたいと考えています。そのためにも、基本的に好き嫌いをせず、古い技術も新しい技術も含めて幅広いことをやっていくようにしています。

――日立製作所という職場の魅力という観点ではいかがでしょうか?

乾 : 基本的にお客さまの企業規模が大きいので、社会的に大きな仕事ができるという点が魅力の1つだと思います。また、先ほどの中村さんと重複しますが、クラウドやコンテナ、OSSなど社内に専門家がすごくたくさんいるので、周りの人から刺激を受けることができる点も、日立ならではだと思います。

中村 : 同じく幅広さが魅力だなと思います。私自身、ある時はJavaフレームワークを扱い、ある時はその知見をもとに技術支援サイドに回り、今はマイグレ・モダナイポータルの構築を担当しています。そういった選択肢の幅広さが、日立の魅力なのではないでしょうか。

――大きい会社だと配属などの希望がなかなか通らないというイメージがあるのですが、その点はいかがでしょうか?

中村 : 基本的には、本人の希望をしっかりと聞いてくれる会社だと思います。そのためにも、上司との面談で自分の希望をちゃんと伝えることが大事だと思います。

乾 : そうですね。しっかりと希望を伝えることは大事ですね。あと職種についてよく聞かれるのが、マネジメントではなくエンジニアリングを極めていけるか、という点です。ここについては日立としても、最近ジョブ型雇用制度を導入しているので、より技術に特化したキャリアを歩みやすくなっていると感じます。

――今後どのような人にジョインしてもらいたいですか?

中村 : 多くのことに興味を持って取り組んでいきたい方に入っていただきたいですね。開発だけに特化するのではなく、例えばお客さまとのコミュニケーションや製品紹介プレゼン、展示会での説明など、様々なことに対してチャレンジ精神を持って対応してくれる人がいいなと思います。

乾 : 特にマイグレ・モダナイの部分は変化が激しいところなので、新しい技術や情報におくせずについていける人、貪欲に吸収していける人が適していると思います。そのためにも常日頃からアンテナを高く持ち、社内外関係なく様々な情報に目を向けることが大事だと思っています。

――ありがとうございます。それでは最後に、読者の皆さまに一言ずつメッセージをお願いします。

中村 : 先ほどからお伝えしている通り、とにかく幅広く事業展開している会社なので、多岐にわたる領域に強みを持つ人とつながることで、組織として多様なソリューションを展開できていると感じます。多くのことに興味がある人にとって非常に魅力的な会社だと思います。

乾 : 一方で私みたいに、1つの分野に突き詰めてスキルアップをしていきたい人にとっても、集中できる環境が整っているので、技術に貪欲な方にジョインしていただけたらと思います。

編集後記

日立製作所ほどの大きな企業グループになると、従業員であったとしても、グループ内で展開されているソリューションを全て把握するのは至難の業だと感じます。だからこそ、今回のマイグレ・モダナイポータルのような形で特定領域の情報や実行環境などを集約するだけでも、相当な業務効率化につながることが実感できました。いずれにしても、このような取り組みを柔軟に進めることができる環境は、エンジニアとしては非常に働きやすいものだと改めて感じました。

取材/文:長岡 武司
撮影:平舘 平


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