「オフショア × オンショア のベストプラクティス ベトナム最大手IT企業が実現する”ベストショア開発モデル”」Qiita Conference 2024イベントレポート

2024年4月17日〜19日の3日間にわたり、日本最大級(※)のエンジニアコミュニティ「Qiita」では、オンラインテックカンファレンス「Qiita Conference 2024」を開催しました。
※「最大級」は、エンジニアが集うオンラインコミュニティを市場として、IT人材白書(2020年版)と当社登録会員数・UU数の比較をもとに表現しています

当日は、ゲストスピーカーによる基調講演や参加各社のセッションを通じて、技術的な挑戦や積み重ねてきた知見等が共有されました。

本レポートでは、FPTコンサルティングジャパン株式会社のデジタルトランスフォーメーションチームにてディレクターを務める日高 幹人氏によるセッション「オフショア × オンショア のベストプラクティス ベトナム最大手IT企業が実現する”ベストショア開発モデル”」の様子をお伝えします。

※本レポートでは、当日のセッショントーク内容の中からポイントとなる部分などを抽出して再編集しています

登壇者プロフィール

日高 幹人(ひだか みきと)
FPTコンサルティングジャパン株式会社
デジタルトランスフォーメーションチーム ディレクター
前職の外資系大手コンサルファームにてセキュリティ事業本部の立上げに参画。2021年にFPTコンサルティングジャパンのCloud & Securityコンサル事業の立上げのために入社。その後、マネージドサービス(MS)事業の立上げに本腰を入れることに。MS事業におけるプリセールスから開発/運用含めたODC(Offshore Delivery Center)構想策定から体制立ち上げ、移管推進と幅広く対応。現在はソーシング戦略、営業戦略策定などの上流にも参画し、今期よりDXチーム責任者としてFPTにおけるDX事業を推進。

なぜ今ベトナムが注目されているのか

日高:まずはベトナムの概要について簡単にお伝えします。日本からは飛行機で5〜6時間ほどで着き、時差は2時間。正式名称はベトナム社会主義共和国で、ベトナム共産党の一党政治になっております。主要な都市は上の画像にある通りハノイ、ダナン、ホーチミンとなっていて、特にホーチミンには先端技術やAI系の開発をする人材が多くいます。

日高:IT業界の観点では、大きく3つのポイントがあると考えています。まず最も注目していることは、ITのハイスキル労働人口です。ベトナム国内のITエンジニア数は48万人強で、人口構造が日本と対称的になっています。若い世代がボリュームゾーンとなっており、国の施策と共に若いガッツのある子たちがIT人材として輩出されてきています。

国としてもアジアの中で急成長しており、GDP成長率は年8%(2022年)を維持。eコマースなどのデジタルの活用もかなり進んでいて、その中でFPTとしても様々なビジネスを多角的にやっています。さらに政治的にも安定しているので、長期的なオフショア先として活動できるかという観点でも問題ありません。外交面では、2023年9月に日・ベトナム外交関係樹立50周年の節目を迎えました。

ベトナムで躍動するFPTコーポレーション

日高:我々が具体的にどのようなビジネスをやっているかについてお話しします。ベトナム国内では国内ナンバーワンのIT企業として知られており、テクノロジー領域の他にも、4,000万人の読者がいる電子新聞サービスなどのテレコミュニケーション領域や、教育領域、モバイル販売などを手がけるFPTショップやベトナムNo.1の薬局チェーンFPTロンチャウといったリテール領域、それから流通領域など、多角的に事業展開をしています。

日高:我々の開発センターはベトナム国内各所に設けられています。それぞれ自社ビルが建っていて、そこで数千人規模のエンジニアが仕事をしています。先ほどお伝えしたホーチミンの他にも、中部・南部エリアにはAIなどの先端技術を扱える人材が豊富にいますので、パートナーさまとともにクイニョンにAIセンターを立ち上げています。

日本の置かれている現状

日高:続いては日本の現状を見ていきたいと思います。上の図は経済産業省による調査結果ですが、2030年にはIT人材が45万人ほど足りなくなるという分析結果が出ており(左グラフ)、その内容を見てみると(右グラフ)、DXやAIといった先端技術をどのように活用してビジネスを大きくしていくかを考え、推進していく人材がさらに必要になっていきます。そのため、今いる人材をいかにリスキリングして先端技術に持っていくかが、大きな課題になっています。

日高:そのような日本における課題を、「ヒト」と「環境」に分けて整理したのが上図左表です。ヒトの観点では、国内IT人材の不足、社員の高齢化/属人化、IT人材の人件費高騰の3つが挙げられています。また環境面においては、ITトレンドの急激な変化や世界情勢不安によるビジネスへの影響、トップラインの減少の3つが挙げられています。

これらの課題に対する策が「なぜオフショアなのか」については、やはり、「ヒト」の面においては若くて元気な人材がたくさん輩出されているという点が大きいです(上図右表)。また日本でなかなかトップライン(売上高)を上げることができていないお客さまが多くなっている中、コストの最適化や削減などを進めるための手段としてのオフショア活用が重要なテーマになっています。

環境面で見てみると、最近よく聞くのはデジタル開発拠点の分散化です。オフショア活用に慣れているお客さまですと、中国やインドなども含めて、用途や業務に併せて拠点を使い分けるという話をよく聞きます。また開発工程の一部を切り出して委託する先としてオフショアから、デジタルビジネスを一緒に作っていくパートナーとしてのオフショアという、関わり方の変化も生じています。

オフショア先の見極めポイント

日高:それでは、どのような観点でオフショア先を選定するのかについてですが、上の図に代表的なポイントを6つ挙げています。

1番はやはり、足りない労働力を補うというポイントです。2つ目はコスト削減。今時点ですと、ベトナムでは日本と比べて、人材コストが2分の1から3分の1程度になっています。3番目は、地理的条件です。欧米などだと昼夜逆転したやりとりが必要になりますが、冒頭でお伝えした通り時差は2時間なので、日中の業務に比較的影響を及ばさない体制が組めます。

オフショアでよく聞く課題に「英語」があります。海外の拠点を使うときはどうしても英語を使うことがあるので、ドキュメントやコミュニケーションが英語ベースになります。社内を見回すと英語に躊躇している人がいる中で、ベトナムは日本語学習者の数が世界で6番目に多い国なので、言語の壁が大きくなりにくいです。これが4番目のポイントです。我々の会社に関してお伝えすると、IT×日本語学習に力を入れています。

5番目は国際情勢・政策安定性です。これらが不安定な状況ですと、そこに拠点を継続的に設けづらくなります。そして最後、6番目は、日本との関係性です。主に以上6つのポイントを重視して選ばれます。

FPTが実現する“ベストショア開発モデル”

日高:一般的に日本のお客さまがオフショアを活用する際には、オフショアの会社と直接やり取りするケースが多いです。一方、我々FPTは、日本各地の主要都市/地方に拠点があり、コンサルメンバーも所属しているので、開発プロジェクトの特性や規模、今後の拡張性を踏まえながら、特に上流部分についてはお客さまの近くかつ日本語でやりとりができるような体制を組みます。

そのような日本側の拠点が起点になった上で、一番のボリュームゾーンをオフショアで開発/運用できるように標準化したり、お客さまから引き継いだナレッジをきっちりとオフショアへ渡していきます。ロケーションや役割ごとに必要な要員でチームを組成するところが、グローバル開発モデルで一番重要なポイントです。

日高:参考として、大規模開発の事例を紹介します。我々の会社で言うと、コンサルの部隊から日本側の開発メンバーとオフショア側の開発、そして運用・保守のチームへと、フェーズごとに役割、体制、ロケーションを段階的に推移させていきます(上図左)。そうすることで、開発のボリュームゾーンはできる限りオフショアを活用することでコストを削減しつつ、日本で人材が少ない領域もきちんとオフショア側でカバーできる強固な体制を組むことができます。

デリバリーの体制については(上図右)、一般的に会社が分かれてしまうと、要件定義までは日本側、そこから先はベトナム側という形でロケーションも役割も分けているケースが多いと思いますが、我々の会社では一気通貫でできるという強みを生かし、基本的には上流から下流まで、オンサイトとオフショアのメンバーをミックスさせるようにしています。

Vモデルの開発工程の中でも日本側のお客さまと密にコミュニケーションを取らなければいけないところは、基本的に日本メンバーもしくはベトナムメンバーでも日本語が話せるメンバーを配置し、要件などを正しく理解し、機能を設計するような部分を担当しております。

一方でVモデルの下の部分、谷の部分に関しては一番のボリュームゾーンになりますので、そこをできる限りオフショアを活用してレバレッジすることで、各チームがオフショアをどんどん活用できる形にしていくところがポイントです。弊社のように日本とベトナムの双方にコンサル部門があるところで、ロケーションを意識しない体制をいかに作っていくかということが、グローバル開発モデルの一番大切なポイントだと感じております。

日高:こちらは弊社の海外拠点になります。各国に弊社メンバーがいるので、オンショアという位置づけの日本だけでなく、欧米の拠点のオンサイトのメンバーやコンサルメンバーを中心に、ニアショアやその国のローカルの中での開発拠点と連携しながら、オフショアのセンターを活用することで、タイムゾーンなどを含めたそれぞれのお客さまが求める要件や要望に対して適用できるモデルを作っています。それを我々は「グローバルベストショアモデル」と定義しています。

「フォローザサン(follow the sun)」のような言い方をしますが、例えば各タイムゾーンの日中帯の開発だけで24時間の開発体制を作ることも可能です。最近増えているのは運用保守の体制です。各国の異なるタイムゾーンを組み合わせることにより、深夜業務などの運用メンバーの負荷を減らすことができます。

日高:最後はトレンドのご紹介です。自己紹介でもODCについて触れましたが、その中でも最近のトレンドとして、ベトナムにオフショアデリバリーセンター(ODC)と言われる、お客さま専用の開発センターを作るケースが増えています。

日高:様々な開発において、ベトナムの中でも得意なエリア/技術領域があるので、そのような観点で選定をしたり、50人、100人規模のODCルームを作ってオフショアから本番環境に接続し、開発/運用できる体制を立ち上げたり、といったことが今まさに求められています。それぞれの領域ごとにチームを組成し、開発から運用保守まで一気通貫で行うことが、最近のトレンドになっております。

今後求められる役割/スキル

日高:最後のテーマはキャリアということで、今日本人に求められている役割についてご紹介できればと思います。

計画を立てるところや几帳面なところ、品質が高いというような日本人の強みがある一方で、慎重になりすぎてスピードが遅いとか、人材不足、属人化といった弱みもあるかと思います。これがオフショアでは逆転することがあります。とにかくスピード、アジャイル、スケールという点は得意な分野で、計画とか品質のような点はまだまだ経験が足りていないです。そのため、得意なところと不得意なところを双方で掛け合わせるような体制が、ODCやベストショアモデルで体現されていきます。

日本が直面している壁に対する一つの大きな解決策として、オフショア活用は今後ますます増えていきます。また、その中で求められる人物像も、異文化の人たちといかに上手にやっていくか、他者を尊重し、補い合い合うことで、ロケーションに関わらず文化をひっくるめて「One Team」にしていけるスキルが求められていきます。国を超えて共創できる人材の育成を、我々はまさに今取り組んでいますし、これから皆さんも求められるのではないでしょうか。

まとめ

日高:本日のまとめです。こちらに記載した6つのポイントについてお伝えしました。興味を持っていただいた方やぜひチャレンジしてみたいという方、日本の中で悶々としている方がいれば、ぜひFPTにお声掛けいただければと思います!

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取材/文:長岡 武司

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