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Podcast番組 #27 | エンジニアの刑事事件対策〜Coinhive事件の当事者として〜

『エンジニアストーリー by Qiita』は、「エンジニアを最高に幸せにする」というQiitaのミッションに基づき、エンジニアの皆さまに役立つヒントを発信していくPodcast番組(無料・登録不要)です。
毎回、日本で活躍するエンジニアの方々をゲストに迎え、キャリアやモチベーションに関するお話をしていただきます。

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今回の記事では、エンジニアで、現在Qiita株式会社で働いているモロさんをゲストにお迎えしたエピソードの配信の模様をお届けします。

Coinhive(コインハイブ)事件の元被告であるモロさんが、自身が関与した経緯や裁判の詳細について語り、事件の影響や自身の経験について説明。また、エンジニアとしてのキャリアやモチベーションについてもお話ししています。エンジニアリングに興味がある人や、Coinhive事件について知りたい人にとって興味深い情報を提供します。ぜひご覧ください🙌

プロフィール

モロ
<ゲスト>
Qiita株式会社 デザイナー
元フリーランスのデザイナーで、現在はQiita株式会社に所属。フロントエンドから木工加工まで、何でも作りたがるモノづくり大好きおじさん。妻子と怪談とビル、漫画が好き。好きなコーギーはペンブローク。息子の寝かしつけで寝がち。

 

清野 隼史
<番組ホスト>
Qiita株式会社 プロダクトマネージャー
内定者アルバイトを経て、2019年4月にIncrements株式会社(現 Qiita株式会社)へ新卒入社。Qiita Jobs開発チーム、Qiita開発チームでプロダクト開発や機能改善等を担当。2020年1月「Qiita」のプロダクトマネージャーに就任。

テーマ「エンジニアの刑事事件対策〜Coinhive事件の当事者として〜」

清野:本日のゲストを紹介します。Qiita株式会社のモロさんです。モロさん、よろしくお願いします。

モロ:はい、Qiita株式会社のモロと申します。よろしくお願いします。

清野:モロさんはCoinhive事件で結構話題になった方です。この事件、エンジニアの方だと記憶にある方も結構いらっしゃるんじゃないかなと思います。今日はこのCoinhive事件についてお話ししていきたいなと思っています。では早速ですが、Coinhive事件ってどういう事件だったのでしょうか

モロ:どういう事件だったか一言で表すのは難しいですけれど、ざっくりお伝えすると。Coinhiveという海外のブラウザ経由で仮想通貨をマイニングするツールがありまして、それを私は「新しい技術が出てきたぞ」と喜んで導入したところ、「それNGですね」と、警察の方からお声がかかりました。そこから聞くも涙、語るも涙の4年の裁判を経て、最終的に無罪をいただいた、という事件です。

清野:この事件の名前に入っている「Coinhive」って、ツールというか、一時期「広告に代わる収入源になるんじゃないか」みたいな感じで話題になっていたやつですよね。

モロ:そうですね、IT系のニュースサイトでもすぐに取り上げられていました。

清野:僕は大学生のころブロックチェーンの研究をしていまして、ちょうどその頃がまさにその事件の裁判が始まるというときでした。教授も「そのあたりは気をつけて」というような話をしていたのが、すごく記憶に残ってます。

モロ:気をつけてね、あいつのようにはなるなと(笑) じゃあ事件が起こったときはまだ、ゲッティさんはQiita社員ではなかったと。

清野:ただの大学生でした。一瞬話をずらして。今ナチュラルに「ゲッティさん」と呼ばれましたが、僕は社内ではゲッティと呼ばれることが多いです。今回は清野ではなくゲッティでいこうかなと思います。

モロ:過去の回のやつ聞かせてもらって、毎回清野って名乗ってて、なんかちょっと、モテにいっているのかな?て印象がありましたね。

清野:なんてこと言うんですか(笑) そういえば僕外で登壇とか打ち合わせとかすることもあるんですけれど、Qiita社内のメンバーと行くと、みんな「ゲッ…」て言ったあとに「清野さんが」って言い直して、変な感じになることが多いですね。

モロ:ゲッティ広めていきましょうよ、かっこいいですよ。

清野:じゃあ今回を機に、ゲッティを広めていきたいなと思います(笑)。はい、ということで、何話していましたっけ。

Coinhive事件の経緯

清野:Coinhive事件のことですね。ちなみに、Coinhiveって当時話題になっていたじゃないですか。話題だからというのもあると思うんですけれど、そもそもなぜ入れてみようと思ったんですか?

モロ:積極的にアウトプットしていこうというマインド自体当時から持っていて、かといって技術者として飛び抜けて知識があったり、腕があったりっていうことではなかったので「新しい技術を試すぐらいなら僕でもできるぞ」っていう意識で、片っ端から、海外のトレンドとかも気にしながら見てたんですよね。そこで「仮想通貨流行ってるし熱いぞ」とホイホイつられて、このざまで。

清野:そうなんですね。他の技術も当時触っていたんですか?

モロ:Coinhiveぐらい有名というか話題になったものではないですが、例えば広告スペースのシェアリングエコノミーはちょっと出てきたところで試したことはありますね。そちらはそれほど有名ではなく、半年くらいでサービスも終了しちゃいまして。ここでお話しするようなことは特にないかもしれないですね。

清野:新しい収入源になりそうなサービスみたいなのをいくつか試してる中で、Coinhiveも触ってみたぐらいの感じだったってことですか?

モロ:そうですね。

清野:事件になり始めたというか、なぜ裁判になってしまったのか。当時の背景がどのような感じだったかというような、いきさつを伺っても良いですか?

モロ:最初は弁護士の人が見つからなかったんですよ。ITという専門性の高い分野、かつ海外でも出たばかりのCoinhiveという、仮想通貨とかブロックチェーンとか難しい何かを使ったということで弁護士に説明ができなくて。もう弁護士に依頼するのは無理だと思って、自分でなんとかしなければと、とりあえずブログなどで発信しようというようなことは考えていました。

その前に知り合いの人とかに「こういうことがあって警察のお世話になっちゃいました。すみません」みたいなことを連絡すると、「弁護士を紹介するよ」と言ってくれる人がいまして。その方のおかげで、以降ずっと弁護してくれた弁護士さんと出会えました。

その弁護士さんとお話しする中で、情報発信は味方を増やすという意味でもやったほうが良いかもしれないという助言をいただきました。そしてブログなどを多くの人に見ていただけて、そのあと一審で無罪、二審で有罪、最高裁で無罪になったのですが、その間クラウドファンディングのようなことをしたり、配信のイベントなどに呼んでいただけたりして、情報共有みたいなことをしていました。

様々な人に関心を持っていただいて、最終的にCoinhive事件として多くの人に知っていただけるようになるんです。いつの間にかWikipediaもできていましたからね。

清野:たしかにCoinhive事件って何というか、今振り返ると特殊な感じだったと思っていて。普通事件ってテレビとかでニュースになって多くの人が知るという流れの気がしますけれど、Coinhive事件はどちらかというとインターネットで広まって、SNSなどでみんなが知るみたいな気がしました。モロさんがあえて事件について発信していたからこそ、話題になったというか。

モロ:そうかもしれないです。もともとCoinhiveというツールが出たときに、何か面白いツールが海外で出てきたと紹介するようなブログ自体は書いていたので、それを見て使ってしまう人がいたらまずいとも思っていたんです。僕のせいで犯罪の片棒を担がせるじゃないですけれど、その可能性はあるという焦りもあって、「こういうことになった」というのをリアルタイムに近い形で共有しながら進めていきました。

なぜモロさんだったのか?

清野:今のお話しを聞いていて気になったんですが、今回モロさんがCoinhiveを使用して警察が家宅捜索に始まったことについて、そもそもなぜモロさんだったんですかね。正直、他の人も使っていたんじゃないかという気がしていて。

モロ:具体的なところはやはり警察の方々の都合というか、こちらでは知る余地のない部分だとは思うんですけれど、一番は大々的に発信していたこと。使い方も説明していましたし。あとはフリーランスってちょっと地に足つかないじゃないですけれど、社会的地位の低さが狙いだったのかなとは、若干思っていますね。

清野:家宅捜索されたってことは、何かしら令状が出てたわけじゃないですか。どういう言い分だったというか、どのような名目で家宅捜索が始まったのでしょうか。

モロ:当時、渋谷あたりで仕事をしていまして、そこで働いているときに「ちょっと協力してくれない? 今家にいるから」というような電話が警察から急に来たんですよ。それで「今仕事で家にいないです」と言うと「迎えに行くから」と言って、来て、一緒に家まで行って。そこまで「事件解決に協力してくれ」以外何も教えてくれなくて、家に着くとバッと「不正指令電磁的記録に関する罪で、家宅捜索します」と言われました。

清野:その時は家までパトカーだったんですか?

モロ:いえ、パトカーではなかったです。茶色いボックスカーみたいな。

清野:じゃあモロさん当時は知らなかったけれど、警察的にはもう捕まえたというか、ターゲットは捉えたというような感じだったんですかね。

モロ:そういうことなんですかね。逃げられはしなかったですね。

清野:そこからどのようなふうに家宅捜索が進んだんですか?

モロ:玄関前で令状みたいなものを見せられて、家に入って行きました。僕としては入ってほしかったです、玄関前に警察の群れがいる状況ってめちゃめちゃ嫌なので。警察の人が家に入って捜査をして、僕は端っこで気をつけの姿勢をとって、何もすることがなくて暇なのでスマホをいじると「スマホ触らないでください」と言われて。はい、と静かに見守っていました。

清野:そこでいろいろ押収されたという感じですか。

モロ:そうですね。関連機器、パソコンとかタブレットとかスマートフォンとかノートとか。それで家宅捜索自体終わったと思うのですが、その日の夜も、翌日以降も、普通に仕事をしていたわけです。かなり不便でした。

家宅捜索後の海外旅行と結婚式

モロ:あとはブログには結構書いているのですが、その家宅捜索の翌週くらいが結婚式だったんです。しかも僕初めての海外で、ハワイへ行くことすごく楽しみにしていて、スマホで写真を撮ろうと思っていたところで押収されたわけですよ。

清野:スマホも持っていかれちゃったんですね。

モロ:しょんぼりしながらちょっと古いiPhone6を持ってきて、SIMとかを差し替えて、「画質悪いな」と思いながらかろうじてハワイを満喫しました。

清野:結婚式は?

モロ:大変良いところでした。

清野:その時ってその、楽しめましたか?

モロ:良い質問ですね。とても楽しめましたけれど、やはり気が気ではなかったですね。妻のお母さんにすごく謝りましたし。本当にすみません、大切な一人娘をこんなことに巻き込んでしまったというように。今でこそ笑い話みたいに言っていますけれど、当時は個人的には非常に深刻でしたね。

清野:なるほど、ありがとうございます。家宅捜索が終わってからのことですが、刑事事件になると思うので判決が出るわけじゃないですか。罪みたいなものが出てからどういう感じだったのかとか、出たときの気持ちとか、お伺いしても良いでしょうか。

モロ:そうですね、流れでいうと、結婚式のあとに警察の取り調べがあって、そこで初めて罪が確定して、という感じでした。先ほども話した通り弁護士の人も無理だと思っていたし、どうしようもないなと感じていたので、個人的には「もう前科者になってしまったんだな」という、ほぼ諦めに近い心境でいましたね。

清野:じゃあそこで罪が確定して、先ほどお話しにあった通り、知り合いの方から弁護士を紹介してもらって、戦いが始まるみたいな感じだったんですね。

モロ:そうですね。

清野:実際その裁判って、何年くらいやっていたんですか?

モロ:3、4年くらいですかね。

清野:3年!その間は裁判しながら仕事もしつつ、みたいな。

モロ:そうです。ただ裁判ってそれほど頻繁にやるものでもなくて、一番多くても月に1回とかのペースですし、その裁判自体も行って15分30分とかで終わります。そういう意味では、あまり仕事に支障なくできたはできたと思います。

清野:そうなんですね。ちなみに当時、会社からの反応とかってどうだったんでしょうか。

モロ:社内のSlackでめちゃくちゃ晒されていましたよ(笑) 当時の上司に「ちょっとモロくん、会議室来れる?」って言われて、「はいなんでしょう…」と行くと「見ましたよこれ」って。でもすごく応援してくれましたね。

清野:そうなんですね。じゃあなんというか、仕事を辞めるとかそういうことはなくて、応援してもらいながら仕事もしつつ、裁判もやってらっしゃったっていう感じなんですかね。

モロ:そうですね。非常にありがたいことに。周りの方に恵まれました。

清野:そこから裁判が始まって無罪が決まり、今に至るっていう感じですかね。無罪が決まってからは特に何もないというか、今はもう終わったと。

モロ:はい、そんな感じです。ちょくちょくいじられるぐらいですね。

清野:まあ、昔の笑い話みたいな感じですかね。

エンジニアの刑事事件対策

清野:ここまでCoinhive事件のいきさつとか、当時の心情を伺いました。今後も新しい技術ってたくさん出てくるでしょうし、その中でも議論になるようなものや、新しく考えないといけないことっていっぱいあると思うんですよね。実際刑事事件で判決が下り、ここまで来たモロさんに、ぜひこの事件からの学びや今後同じような状況になりうる人たちに対して、何かメッセージをお伺いしたいです。

モロ:僕の立場で言うと嫌味っぽくなってしまうんじゃないかなって懸念はあるんですけれど、警察って絶対に正しいわけじゃないんだなっていうのが、個人的には一番驚いたというか勉強になったというか。

今まで意識してなかった部分かなと思います。それまでの人生では良い子にしていたので、警察の人って落とし物を拾ってくれるか道を教えてくれるという存在だったんです。その警察が、ドラマであるように本当に家に来て取調室で怒鳴ったりするんだ、というのが結構衝撃なんですよね。怖いとかじゃなくて、びっくりしたなっていう印象が大きくて。ITでお仕事されている方や、そうではない方も含めて今後誰でもそのような事態に直面しうる状況だと思います。

清野:しかもみんな多分、大半の方が初体験になると思います。僕も他人事じゃないなと思いました。

モロ:僕の場合はただただびっくりして、警察の人が言うんだったら「そうなんだ」って思ってしまいましたね。当時は知り合いの方に弁護士さんを紹介してもらえたり、その弁護士さんが技術にすごく理解のある方だったりして、本当に運良く無罪になりましたけれど、他の方が同じ状況になったときに、みんながみんな同じように上手くいくかというと分からない。

本当に怖いことだと思うので、もしそうなったときにどうすべきかは、様々な方達が考えながら、技術なりに向き合っていくのが良いのかなと個人的には思っています。

清野:僕も何かあったらまずモロさんに相談しようかなって、今日お話聞いてより強く思ったので、何かあったらよろしくお願いします。

モロ:承知しました。でも弁護士さんをそのまま紹介することしかできない。

清野:でもそれだけでもめちゃくちゃ、僕もありがたいなと思いますし、今回聞いた方もそれを覚えておけば、モロさんに連絡すれば紹介してもらえるかもしれないので、最後の砦としてもらえたら良いなと思います。

モロさん、本日はありがとうございました! 次回もモロさんとお送りします。

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さいごに

「エンジニアストーリー by Qiita」は、近年高まるエンジニア向けPodcastのニーズに応え、エンジニアのキャリア形成に有益な情報を発信しています。興味のあるテーマを見つけて配信を聞いてみましょう!

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