創業約60年、野村総合研究所のメンバーが語るアウトプットのTips「ハードルを高く考えず、気軽に発信」

近年、アウトプットの重要性が高まっています。しかし中には、アウトプットをしたいけれど方法が分からなかったり、ハードルを高く感じてしまったり、始めたは良いものの続けられなかったりする方もいるのではないでしょうか。

そこで今回は、組織的にアウトプットの取り組みを積極的にされている株式会社野村総合研究所の4名に、これまで実施してきた取り組み、アウトプットをするモチベーションやコツなどをお聞きしました!「記事投稿を続けたことで知り合う人や仕事の幅が広がった」「数年前まではあまり外部に発信していなかったけれど、今となっては継続的に記事を投稿している」など、様々な経験やTipsを紹介していただきました。ぜひアウトプットの参考にしてみてください。

プロフィール

相田 洋志(あいだ ひろし)
株式会社野村総合研究所
生産革新センター
プラットフォームサービス開発二部 グループマネージャー
2004年株式会社野村総合研究所入社。Javaフレームワークのミドルウェア開発からキャリアをスタートし、2012年にオープンソースの導入支援・サポートサービスであるOpenStandiaに合流。現在は認証・ID管理関連のプロダクト開発やプロジェクト支援をミッションとする組織にてグループマネージャーを担当している。
和田 広之(わだ ひろゆき)
株式会社野村総合研究所
生産革新センター
プラットフォームサービス開発二部 チーフエキスパート
2002年株式会社野村総合研究所入社。2010年にオープンソースの導入支援・サポートサービスであるOpenStandiaに合流。認証・認可、ID管理分野を中心とした技術コンサルティング、システム構築を担当しつつ、KeycloakやmidPointなど多数のオープンソースにコントリビューションを行っている。
蒋 宗孝(ちゃん じょんひょ)
株式会社野村総合研究所
生産革新センター
プラットフォームサービス開発一部 シニアテクニカルエンジニア
2015年 株式会社野村総合研究所に入社。自社製品の企画・開発や、様々なプロジェクトにおけるフロントエンド領域の開発標準化・CI/CDパイプラインの構築を担当。ハッカソン、社内ISUCONなどエンジニア向けイベントの企画・運営も行う。Next.js App Router和訳ドキュメント、横浜・みなとみらいのTechコミュニティNetadashi Meetupの運営。
酒井 将大(さかい まさひろ)
株式会社野村総合研究所
生産革新センター
プラットフォームサービス開発一部 シニアテクニカルエンジニア
2019年に株式会社野村総合研究所に入社し、フルスタックエンジニアを目指して邁進中。様々な業界のミッションクリティカルなシステムにおいて開発標準化やCI/CDの導入を担当。現在はNext.jsやAzureを活用したシステムの開発に従事し、フロントエンドから基盤まで幅広い技術領域を習得しながら日々活躍している。

開発生産性を劇的に上げるためのミッションに取り組む

―― まずはじめに株式会社野村総合研究所(以下、NRI)について教えてください。

相田:NRIは1965年に創業し、現在は「Dream up the future. 未来創発」をコーポレート・ステートメントに掲げ、コンサルティング、金融ITソリューション、産業ITソリューション、IT基盤サービスの事業を展開しています。基本的には国内をメインに展開していますが、アジアやヨーロッパやアメリカといった国外にも拠点があり、グローバルビジネスも広げていこうと取り組んでいます。もともと野村證券株式会社のコンピューター部門から始まったため金融系のお客さまが多いですが、そのほかにも産業系・流通系など様々な分野のお客さまがいらっしゃいます。

NRIはコンサルの会社というイメージが強いかなと思います。しかし売上比率でいうとコンサル事業は6〜7%とそれほど多くなく、それ以外は金融ITソリューションや産業ITソリューションの事業が大半を占めています。

中でも私たちは、IT基盤サービスという部門の中にある生産革新センターに所属しています。IT基盤サービス部門では直接お客さまに対してIT基盤技術のご支援をすることもある一方、社内の各部門を技術的にバックアップすることもあります。そして生産革新センターでは開発生産性を劇的に上げるためのミッションを持って社内の支援をしています。

基盤セグメントには現在1,700人ほど、生産革新センターには210人ほどが所属していて、JavaやSpring、React、Vue、Next.jsなど様々な技術を取り扱っています。認証やID管理を中心としている部隊もあり、そこではKeycloakやmidPointといったオープンソース製品に関連した技術発信をしています。

相田:それから、OpenStandiaというブランドで社外に対してサポートサービスを提供しているのですが、そちらで取り扱っているオープンソースがこちらの表です。100製品以上揃えているので、ラインナップは結構多いかなと思います。 

入社して初めて外部に向けて記事を書くという方も

―― 貴社ではこれまで、どのようなアウトプットの取り組みを行われてきましたか?

和田:そもそも私自身、2014年くらいから、技術について調べて気になったことやTipsをQiitaに書いていました。私たちは普段仕事でオープンソースを取り扱っていますが、オープンソースって海外製のものが多く、情報も英語しかない場合もあります。それらを日本で広げるためには日本語での情報がないといけないと感じる場面が多々ありました。当時アドベントカレンダーが流行ってきていたこともあってちょうど良いタイミングだと感じ、自分たちもオープンソースの情報を日本語で発信できると良いねということで記事投稿を始めました。発信を続けていると、次第にNRIは認証・認可、ID管理系に強い会社であるという見られ方をされていって、記事や書籍の執筆、海外書籍の翻訳依頼につながっていきました

記事投稿と別の取り組みとしては、社外セミナーやオープンソースカンファレンスなどでの登壇も2013年ごろから始めていましたね。

―― ということは、Qiitaなどで記事を投稿しはじめたときは書籍の執筆などについては、考えていらっしゃらなかったんですか?

和田:そうですね、考えていなかったです。

―― 貴社ではアウトプットへの取り組みに関して、もとから活発だったのでしょうか。

蒋:いえ、もともと個人でアウトプットをしていた人はあまり多くない印象ですね。まさにアドベントカレンダーがアウトプットの取り組みを始めるきっかけになったケースが多々あります。私たちの部署あたりでいうと、新人の方たちはOJT期間中に、「アドベントカレンダーで記事を出そう」というキャンペーンみたいなことを毎年行っています。

Qiita Advent Calendar について:https://help.qiita.com/ja/articles/qiita-adcal-1

そこで「人生で初めて外に向けて記事を書きました」という声を聞くことがあります。最初はハードルが高いと思っていたけれど意外とそうでもないとか、記事を出してみると様々な人に読んでもらって、中にはコメントやアドバイスをくれる方もいて新しい学びがあると気づいていきます。そして「外に向けて発信するのは、自分にとっても世の中にとっても良いことだ」と感じるみたいです。中にはそれをきっかけに個人で執筆を始める人もいて、好循環が生まれている気がします。

―― 初めて外部に向けて記事を書くと慣れないこともあると思います。最初どのように進めているのでしょうか。

酒井:私が入社して2年目のときに、アドベントカレンダーの執筆を組織的に始めましょうとなりました。それまで私自身は社内向けの勉強会で発表したことはあったのですが、社外に記事を出したことはほとんどなく、やはり最初は「どういった記事を書いたら良いか」と迷ったり不安に駆られることが多かったです。

ただアドベントカレンダーは組織としてみんなで書こうという流れがあったため、発信したことがなくても参加しやすいというところが大きかったなと思います。同期もたくさんいるため、そこで一気にハードルが下がりました。またNRIでは記事を書くにあたって新人にはインストラクターがついてくれて、書きたいことを話してそれに対するアドバイスをいただけたり、書いた後にレビューをもらえたりして、安心して執筆を進められるのは良いところだなと思っています。

そして記事を出すと様々な方からフィードバックをもらえたり、壁を1つ越えたことで「もっと出してみよう」と思えたりして、アウトプットをすることで自分の成長につながるのも良い点だと感じています。個人的には社内だけではなく社外に向けて発信することで自分自身のプレゼンス向上にもつながりますし、仕事の幅も広がると思っているのでこれからも引き続きアウトプットは続けていこうと思います。

書くときに意識しているTipsや社内での取り組み

―― 今では継続的に記事を書かれているとのことで、書くときのTipsって何かありますか?

酒井:私は技術系の記事を書くことが多いのですが、「○○なプロダクトを作りました」という記事だとどうしても文量が多くなってしまいます。そうすると逆に読まれなくなってしまうこともあるので、読者の目線に立ってどう書けば読みやすいかを考えることが重要かなと思います。例えば、読む時間がない人でも要点が理解できるように最初に結論やまとめから入ったり、事前知識がない人にも読んでもらえるよう図をこまめに挿入したり、ドキュメントのリンクを貼ったり、重要な部分を赤字にしたりと、工夫できるところはとことんしています。おかげでマークダウンの記法もかなり身についたなと感じています。

蒋:部内では勉強会も開催しているのですが、これまで私が書いた記事がいくつかバズったこともあり、自分なりの理論を紹介しました。Qiitaのランキングの仕組みを伝えるなどしてましたね。あとはバズっている記事を自分なりに分析したパターンや、細かい話になりますが「タグをちゃんとつけよう」などを伝えました。みんなで質の高い記事を書こうということでそのような取り組みもして、比較的読みやすい記事を出せるようになったのかなと感じています。

―― 私もこの勉強会に参加したいくらいです! こういった紹介をしたあとに記事を書くときのアドバイスが欲しいなどの相談を受けることはありますか?

蒋:たまにありますね。レビューをしてほしいとか、あと相談としては抽象的なんですけれど「これ読んでバズると思いますか?」とか。「読みやすさの観点でどう思いますか?」とかもあります。それに対して感覚的な内容になることもありますけれど、どうしたらより良くなるかを含めてフィードバックをしています。

どのようなモチベーションで記事を書くのか

―― Qiitaのアドベントカレンダーでは2017年から毎年カレンダーを作成いただいて、25記事ほぼ埋まっている状態、しかも特定の人が何記事も書くのではなく様々な方に投稿していただいています。どういった方に書いていただいているのでしょうか。

酒井:新入社員から課長、部長まで幅広く書いてもらっています。アドベントカレンダーが始まったタイミングで周知するのですが、誰かを強制的に割り当てるようなことはせず、みんな自主的にエントリーをしてカレンダーを埋めていくスタイルをとっています。中には記事を複数書きたい方も多くいるので、意外と早く埋まるんですよね。

アドベントカレンダーが始まった当初は部内で閉じた活動になっていたのですが、今では他の部署の方もたくさん参加してくれるようになり、どんどん発信する文化が広がる好循環が生まれています。最終的には全社にまで広げていけたらいいですね。

―― そうなんですね!本日インタビューを受けていただいたみなさんが記事を書くモチベーションって何でしょうか?

相田:認証やID管理の技術発信をたくさんしたことによって、記事を見た社外の方からお声がけいただいて仕事につながることもあるんですよね。いつもKeycloakの記事を参考にさせてもらっていますとか。そういうふうに仕事につながるのが、私はすごく楽しいなと感じています。

和田:書いてみないと自分が理解できていないことが分からない、というか、書くことで理解できていなかったことが分かるようになるのが一番大きいかなと思います。認証や認可って様々な細かい仕様がありまして、それを他人に伝えようとすると、それらが意外と分かっていなかったなと気づくことがあります。アウトプットすることで整理されて、より自分の理解を深められることが良いなと思います。

酒井:なるべくたくさんの人に自分を知ってもらいたい、という想いがありますね。やはり社内向けの発信だけだと社内にしか自分のことを知られませんが、外部に公開する記事を書くことで社外の人にも名前を知られるようにもなりますし、今後の仕事の幅が広がることもあると思います。私も入社してから業務が頻繁に変わっているのですが、名前を知ってもらっているとそこから会話の種が生まれたりと最初から仕事がしやすかったりすることも多いです。

蒋:先ほどお伝えした「バズる」もそうですけれど、例えばアドベントカレンダーなどで書くとき、あえてあまり知らない技術やその時のトレンドになっている技術をテーマに設定することがあります。すると知らなかった技術をかなり深く調べて新たに知ることができて、それが楽しいなと思っています。

―― ありがとうございます!記事投稿以外に何か取り組まれていることってありますか?

蒋:我々が所属している部門を中心として、Meetupイベントを社外向けに公開/開催しています。技術的な勉強会のイベントです。Qiitaで外に出す文化が組織に根付いてきて「社外の人と交流したい」という機運が出てきて始まったものです。ここ6〜7年主催しています。

―― そうなんですね!場所とか頻度とかはどのような感じですか?

蒋:だいたい年に2〜3回、形式はオフラインがほとんどですね。場所がみなとみらいになることもあり、その周辺の方が多く参加されています。回ごとにテーマは変えています。例えばフロントエンド、AI、最適化とか。1回につき80〜100名ほどが参加されます。

―― オフラインのMeetupで1回につき80〜100名!たくさんの方に参加いただいている印象を受けます。そのようなオフラインでのイベントを開催して、良かったと感じる点をお聞きしたいです。

蒋:まず我々の部署でいうと、普段外部の方と技術的な交流を図る文化がない若手メンバーもたくさん参加します。「NRIが主催するイベントなら足を運びやすい」ということをきっかけにして参加するのですが、そこから社外の方と技術的な交流を持ちます。次第に慣れていって、世の中には技術に関してパブリックに公開されているMeetupイベントってたくさんあると思うんですけれど、そういったイベントにも足を運ぶようになることもあります。そういう意味では一歩目のステップとして結構良い役割を果たしていると思います。

アウトプットをすることで世界が広がる

―― 最後に、アウトプットに関して読者の方にメッセージをお願いします。

和田:私自身はオープンソースソースの修正や改善、ドキュメント翻訳などのコントリビューションや、記事の投稿といったアウトプット活動をしています。こうした活動を続けていくと、海外の人々と知り合う機会が増え、世界が広がっていくことを実感しています

酒井:アウトプットをすることは正直簡単じゃないと思っています。技術について調査して終わりという方も多くいると思いますが、その後に勉強会やQiitaなどで発信するのが大事かなと思います。調べるから発信する、そのハードルが高くて踏み出せない人も多いと思いますが、思い切って一歩を踏み出すことで、より世界が広がると思います。ですが一人ではなかなか難しいので組織的に取り組まれていることに乗っかるのが最初は良いのではないでしょうか。

あとは記事を出すと間違いに対して批判を受けるんじゃないかと不安になるかもしれませんが、そこは気にしてほしくないですね。優しい方も多いですし、間違っていたらコメントで教えてもらうことで自分も成長できるというポジティブな考え方で記事を出していくと、より自分自身の成長にもつながっていくと思います。

蒋:アウトプットをすることのハードルを高く考えすぎなくて良いと伝えたいですね。記事を書くとなると立派なことを書かなければと思ってしまいがちかもしれないですが、そんなことはないです。例えばコマンドラインのオプションがいっぱいあって自分は知っているけれど他の人は知らないというような、自分にとっての当たり前が他の人にとっては価値がある場合も多々あると思うんですよね。なので一旦ハードルを高く考えずに、備忘録的な感覚で記事を出してみるのは良いのかなと思っています。

相田:Qiitaの媒体って様々なレベルから始められるのが良いなと思っていて。別の媒体でも記事を書いていますが、そういった媒体の中には記事を書き始める段階である程度のノウハウやつながりが必要な場合があります。Qiitaの場合は備忘録から始められますし、逆に書籍みたいな記事を書かれている方もいるので、様々な使い方ができるのは良いですね。あとは組織の技術レベルを透明化できるなとも思います。現場のメンバーがそのときに使っている技術をどれくらい理解しているのかを記事にして出すことで、これだけ分かっている人だから仕事をお願いしたいなど、仕事にもつながります。そういった活用をしたい企業にとって、QiitaのOrganizationを使うのは良いと思います。

編集後記

今回お話しいただいた4名の経験やアウトプットへの考え方などをお聞きして、アウトプットの良さや気軽に発信しつづける大切さを改めて学びました。お話にもあったように、記事を出すならハイクオリティなものを作らなきゃと考えてしまうとなかなか出せないですが、ハードルを高くせず、気軽に発信することがポイントだなと感じました。

取材・文:Qiita Zine編集部

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