中国のインターネット企業の存在感が日に日に増している中、世界最大規模のECサイトを運営しているのがアリババグループです。その莫大なトラフィックをさばくインフラは、パブリッククラウドサービス「Alibaba Cloud」として提供されており、世界のクラウド市場でシェアを急拡大しています。
そのAlibaba Cloudを、ここ日本ではソフトバンクグループのSBクラウドが展開しており、国内の開発者にとっても注目すべき存在になりつつあります。果たしてAlibaba Cloudとは何なのか。SBクラウドでソリューションアーキテクトとして活躍する森真也さんに、Increments 代表取締役社長の海野弘成が話を伺いました。
・世界最大規模の中国ECサイトを支えるクラウド基盤、Alibaba Cloud
・アリババならではの「データ処理」に強み
・AWS経験者なら、Alibaba Cloudにもすぐ慣れる――エンジニアにとっての魅力
・他社の真似ではない、Alibaba Cloudの独自色が出てきた
プロフィール

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世界最大規模の中国ECサイトを支えるクラウド基盤、Alibaba Cloud
海野:本日はよろしくお願いします。まずは森さんがAlibaba Cloudに携わるようになったきっかけを教えてください。
森:私はソフトバンクグループのSBクラウドという会社のソリューションアーキテクトとして、Alibaba Cloudのお客様導入を支援したり、イベントに出たりと、認知度を高める活動をしています。
ソフトバンクでは、もともと携帯電話のネットワークを自動化する開発業務に3年ほど携わっており、オンプレミスでの環境構築や運用に苦労していました。そんなとき、ソフトバンクがAlibaba Cloudを国内に展開することになり、社内公募にエントリーしたのがきっかけです。

Alibaba Cloudに携わったきっかけは「ソフトバンクの社内公募がきっかけだった」と森さん。
海野:Alibaba Cloudにはどのような特徴があるのでしょうか。
森:Alibaba Cloudはまだあまり知られていないと思いますので、まずは中国のIT環境からお話します。中国にはTwitterもFacebookも、Amazon.comもGoogleもありません。人口が約14億人もいる中で、別世界のインターネットが発達しています。
その中でアリババは、世界で時価総額トップ10に入る巨大企業に成長しています。中国では、11月11日の「独身の日」にセールを開催するのですが、ECサイトとして世界一の規模になる、1日で約3兆円もの売上がありました。それを支える独自開発のインフラと、その下のレイヤーの技術で実現したのがAlibaba Cloudというわけです。
海野:もともとは中国でやっていて、海外に出てきたという感じですね。
森:ここ2年くらいで海外にも本格展開しており、海外には18のリージョンを持っています。突然出てきたサービスに見えるかもしれませんが、中国ではかなりの実績があり、日本で展開しているものだけでも50〜60のサービスがあります。
日本市場ではアリババの知名度が高くないこともあり、2年前にソフトバンクと組んでSBクラウドを設立しました。SBクラウドはAlibaba Cloudの日本リージョンを運営している会社です。
中国でAlibaba Cloudのシェアは45%くらいあり、圧倒的No.1です。その次に目指しているのが東南アジアです。欧米や日本での認知度はまだ低いのですが、パブリッククラウド市場での売上として、世界で第3位くらいに浮上しています。

中国アリババが誇る世界最大規模のECサイト。Alibaba Cloudの基盤には、そのインフラ技術があるといいます。
アリババならではの「データ処理」に強み
海野:アリババの巨大なトラフィックに耐えるインフラというのは、魅力的ですね。ところでクラウドサービスは大きなところがいくつかありますが、選ぶときに見るポイントはどこでしょうか。
森:いま、Alibaba Cloudをほぼ間違いなく採用いただくケースというのが、日本から、中国や東南アジアに進出したいというお客様です。中国に進出している事業者は他にもありますが、政治的な理由などで運営を別会社に委託しているなど、本来のクオリティが出ないといった事情があるようです。
また、メーカーや小売など、もともと中国に展開していたお客様の場合でも、中国の基幹システムだけが別物になっていることもあります。それを一緒に管理したいといったケースもありますね。
もうひとつの選ばれる理由が、専用線です。Alibaba Cloudでは日中間に、インターネット経由ではない専用線を引いています。帯域幅に対して課金するタイプで、データ転送のトラフィック自体は無料です。これは使わない理由はないですね(笑)
レイテンシは、インターネット経由だと100ms、200msとばらつきがありますが、専用線では30msです。日本リージョンの詳しい場所は公開していませんが、東京にあります。
アリババとして、中国以外にもグローバルなネットワーク環境を作ることに注力しています。これまではリージョンごとにVPC(Virtual Private Cloud)を作っていましたが、世界各地のVPCを帯域固定の専用線でグローバルに接続するCEN(Cloud Enterprise Network)というサービスがあり、日本でもつい先日リリースしました。いまの時代、1つの国だけでなく世界各国への展開が求められますが、その中でグローバル展開の敷居を下げようという取り組みです。
海野:なるほど。
森:中国から海外へのネットワーク接続が遅いという事情もあります。世界14カ国から利用されるシステムをAlibaba Cloudに移行したお客様の場合、中国と日本の2つのリージョンを使って中国側は中国専用に、日本側はスケールできるようにしました。日中間は先ほどご紹介した専用線で同期しています。こうした構成はよく採用されますね。
それから、アリババが得意としているのがデータ処理の部分です。例えばAlibaba CloudのMaxComputeは、Hadoopのような分散処理をより高速でリーズナブルにできるマネージドサービスです。
さらに開拓を進めているのが機械学習です。ある企業の例ですが、Oracleのデータベースをもとにビッグデータ解析ができる基盤を作り、その次のステップでクラウド上のワークロードに機械学習をシームレスに入れ込んでいます。アリババ自身も使っているので、よくできているというわけです。
海野:クラウドはAWS、GCPなどいろいろなサービスが出てきましたが、それぞれの会社が強みとしている部品を組み合わせて使うことが増えつつありますね。Alibaba Cloudでは、分散処理や機械学習だけを切り出して使えるのでしょうか。
森:使えます。極端な話、AWSなどで運用いただいて、アーカイブしたログデータを何らかの方法で転送していただければ、Alibaba Cloudのデータ分析だけを利用できます。
ただ、データ転送はマルチクラウドでは課題ですね。我々の取り組みとして、Alibaba CloudとAWSの間にVPNのコネクションを張れることはテックブログで公開しています。
AWS経験者なら、Alibaba Cloudにもすぐ慣れる――エンジニアにとっての魅力

エンジニアとして、またQiita Zine編集長としての視点を交えて森さんに聞く海野。QiitaでもAlibaba Cloudの投稿が増えてきています。
海野:実はQiitaでも、Alibaba Cloudについて120〜130本ほど投稿があります。コミュニティ作りやノウハウの共有にあたって、どうやってエンジニアを巻き込んでいくのでしょうか。
森:まずはテックブログの「SBCloud Engineers’ Blog」で我々から発信しています。社外では「AliEaters」というコミュニティがあります。もともと「AWS Samurai」などをやっていた方々が、新しいものを物色する感じでユーザーサイドで立ち上げてくださったんです。また、イベント会場として、ソフトバンクが取り組んでいるコワーキングスペースの「WeWork」も提供しています。
エンジニアの皆さんが衝撃を受ける点としては、やはりAlibaba Cloudを知ったときにいきなりすごい規模になっていることですね(笑)。
海野:日本でもAlibaba Cloudのコミュニティが立ち上がってきている状況ですね。
森:毎年9月に、中国の杭州でAlibaba Cloudのカンファレンス「The Computing Conference」(雲栖大会)をやっているのですが、コミュニティに貢献してくれた人を招待したいと考えています。何万人という規模のイベントで、全然知らない世界から刺激を受けられると思います。
海野:Alibaba Cloudのどのあたりが面白いとか、そういう反応はありますか。
森:最近、面白いと言ってもらえたのがサーバーレス版のKubernetesです。自分でノードを管理する必要がなく、マニフェストファイルだけで勝手にやってくれるものが中国でベータ版として出ていますが、私の知る限り、他のクラウドにはまだないですね。
海野:AWSの新機能などは、米国で出た後に日本でリリースされるイメージがあります。Alibaba Cloudはどうでしょうか。
森:最初に中国で出て、シンガポールや香港などから世界に展開するという形が多いです。ただ、先ほど紹介したグローバル接続サービスは、日本からのニーズもあるということで、中国と日本で同時に出しました。注目度の高いものはなるべくリアルタイムで出そうとしています。
海野:Qiita Zine読者のエンジニアが使ってみると面白そうなサービスはありますか。
森:AWS Lambdaのようなイベントドリブンや、最近話題のクラウドネイティブに即したサービスもあるので、ぜひ触ってほしいですね。Kubernetesのマネージドサービスは日本リージョンでも出しています。1年間使える3万円分のクーポンもあるんですよ。イベントではさらにプラス2万円くらい……あっ、生々しい話ですみません(笑)。

遠慮しながらも、森さんは無料クーポンについて教えてくれました。
海野:パブリッククラウドでは利用料金も重要ですよね。Alibaba Cloudではどうでしょうか。
森:料金は意識しています。他社より定価ベースで1〜2割安くすることを考えています。最近の案件で見積もりが半額くらいになってしまい、本当に大丈夫かと心配したこともありました(笑)。
パブリッククラウドとしての概念はAWSと似ているので、AWSを使ったことがある人ならすぐに触れます。HashiCorpのTerraformなども対応していますよ。使い勝手が同じで、かつ料金が安いということでAlibaba Cloudを選んでいただくこともあります。ドキュメントも多くは日本語化しており、機械翻訳ではないので読みやすいです。
海野:他社と同じ使い勝手の部分もありつつ、アリババならではのデータ処理とか、サーバーレスのKubernetesとか、面白い部分もありますね。Alibaba Cloudを今後日本に広げていく上で、Qiitaをどのように活用されたいですか?
森:QiitaはSEOが強いですよね。Qiita Organizationの機能も、テックブログの代わりに使いたいです。自社ブログのように新しく始めたものはなかなか検索に引っかからず、苦労しています。逆に聞きたいのですが、あのSEOにはどんな秘密があるのでしょうか(笑)。
海野:いわゆるSEOノウハウではないのですが、皆さんにユニークな記事を丁寧に書いていただいているのが大きいです。

Qiitaの活用法を尋ねると、森さんからQiitaのSEOについて逆質問が。
他社の真似ではない、Alibaba Cloudの独自色が出てきた
海野:Alibaba Cloudの今後の展開はどう考えていますか?
森:ここ半年くらいで、ようやく他社の真似や追随ではなく、Alibaba Cloudの独自色が出てきました。機械学習やサーバーレスKubernetesなど、我々も発信していくので、まずはウォッチしてほしいと思います。中国側ではコンテナのベストプラクティスなど、アリババの人が書いている記事がたくさんあるので、ローカライズして日本に持ってきたいと考えています。
AIを活用したImage Searchというプロダクトも出しました。例えばバッグの画像をアップロードすると、それに似た画像をレコメンドしてくれる画像検索を実現できます。エンジンがアリババのEコマースに特化しており、かばんや服の画像は特に検索の精度が高いです。
中国ではコンサルティングの段階からアリババのデータサイエンティストに入ってもらえるというサービスがあり、我々も大規模な案件ではアドバイスをもらっています。他社のクラウドでは、本国からの支援というのはなかなかないですよね。
アリババの技術は変に隠したりせず、オープンにしているところも、見ていて楽しいと思います。例えばアリババの要求に合わせてnginxをフォークしたTengineというWebサーバーがありますが、これを作った人がアリババを退職してOpenRestyを作ったんですよ。
リレーショナルデータベースにはアリババの自社ECサイトを支えてきたAliSQLを採用しており、これもオープンになっています。OSSは米国主導と思われがちですが、意外とアリババの人もコントリビュートしています。
海野:Qiita Zineの読者でも、Alibaba Cloudを知らなかった人、知っていたけど使っていなかった人もいると思います。最後に皆さんにメッセージはありますか。
森:我々のビジネス上、どうしてもエンタープライズ利用に寄せている部分はありますが、デベロッパーも重視しています。アリババの特徴であるビッグデータ系の製品としてMaxComputeや、それに付随するサービスはぜひ使ってみてほしいです。コンテナ系の情報もぜひ発信していきたいですね。9月のアリババツアーにも来てほしいです。
海野:ありがとうございました。
中国でシェア45%、世界でも第3位と、パブリッククラウド市場で急浮上してきたAlibaba Cloud。アリババの莫大なトラフィックを支えるインフラを基盤としながら、まだ日本ではあまり知られていない別世界のサービスとして興味を惹かれます。「日本の開発者もぜひウォッチしてほしい」と森さんは熱く語ってくれました。
その中身は、他社サービスと使い勝手が似ている部分もありながら、データ処理や機械学習など、アリババならではの独自性も兼ね備えているそうです。Alibaba Cloudの詳しい情報は、公式サイトやテックブログ「SBCloud Engineers’ Blog」で発信されているので、興味をお持ちであればもちろん、最新のトレンドを知っておくためにも、チェックしてみてください。
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