2020年以降のコロナ禍をきっかけに、ビジネスの前提は大きく変化しており、その中で企業は持続可能な市場優位性を高めるべく、これまで以上に様々な取り組みにチャレンジしている状況です。その1つが、グローバルマーケットへの展開に向けた積極的な投資と言えるでしょう。
マーケットの資金流通が低減している状況においても積極的なグローバル展開を行う“攻め”の姿勢は、VUCA時代におけるDXのスタンダードとなるのかもしれません。
今回は、コロナ禍においてグローバル企業であるFusionexとの戦略的パートナーシップを結んだ日立製作所について取材しました。
同社は2020年4月1日に、アジア地域を中心にAIやデータアナリティクスのSaaS型サービスを展開するFusionex International Plc(以下、Fusionex)と、日立の子会社および特別目的会社であるFusioTech(以下、FusioTech)を設立する契約を締結しました。 Fusionexは新会社にそのノウハウ、テクノロジー、経営マネジメントなどのリソースを投入。世界経済を背景に、新会社の積極的な成長と拡大を目指しています。
どのような意図でFusionexと提携し、また中長期的にどのような未来を描いているのか。Fusionex および FusioTech にてグローバル市場開発へと専門的に従事するアイザック・ジェイコブ氏にお話を伺いました。
目次
プロフィール

Senior Vice President
アジア地域で15,000社以上のクライアント基盤
――まずは、FusionexとFusioTechがそれぞれどのような会社なのか、事業概要や設立経緯などを教えてください。
ジェイコブ:Fusionexは、グローバルに事業展開するデータテクノロジー・プロバイダーです。2005年の設立以降、マレーシアを主な拠点としてAIやビッグデータ、それを活用したアナリティクス等を専門とするアプリケーションや導入コンサルティング等を提供しています。
アジア太平洋地域をはじめ、米国やヨーロッパなど多くのFortune500のクライアントのご支援をしております。アジア地域においては、15,000社以上のSME(中小企業)を中心とする顧客基盤をもっております。
――SME市場からスタートした会社なのですか?
ジェイコブ:いえ、はじめはエンタープライズやコングロマリットといった大企業さまへの製品提供からスタートしました。そのような企業さまとお付き合いしていく中で様々なご要望をいただき、データモデルやダッシュボードの種類が豊富になり、結果として多様なテンプレートを作ることができました。
そこで培ったものをSMBにも提供できるようになったという流れです。
――なるほど。FusioTechは、どのような経緯で設立されたのでしょうか?
ジェイコブ:FusioTechは、2020年の日立製作所との協業の中で生まれた会社です。Fusionexがそれまで培ってきたAI・データアナリティクスの技術やSaaS型サービスに焦点を当て、データテクノロジーを展開している会社です。
日本では今「DX」が大きなビジネストレンドになっているかと思いますが、アジア地域においてもその流れは同様で、デジタルソリューション事業の著しい成長が見込まれています。特に、初期投資を軽減しながらスピーディーに利用開始できるSaaS型サービスのニーズは高く、Fusionex時代の2011年〜2018年ではCAGR(年平均成長率)は20%と急拡大している状況です。
このような顧客基盤および技術力を日立グループの一員として存分に活かし、シナジーを最大化することで同社のLumada事業(※)拡大へと貢献することが、FusioTechの大きなミッションとなっています。
※Lumada:お客さまのデータから価値を創出し、デジタルイノベーションを加速するための、日立の先進的なデジタル技術を活用したソリューション・サービス・テクノロジーの総称
――ぜひ、FusioTechの具体的なソリューション内容も教えていただきたいです。
ジェイコブ:FusioTechには2つの重要な事業に焦点を当てています。業種特化のテンプレートを多数用意しているSaaS型分析プラットフォーム「GIANT」の提供と、200名を超えるデジタル人財による導入サービス/コンサルティングサービスです。
GIANTのテンプレートは多岐に渡っています。
Eコマースであれば製品ごとの販売動向分析や在庫管理、配送状況・実績の分析、ホテル業界であればチャネル毎の売上実績分析やロイヤルティプログラムの顧客動向分析などです。また、製造業であれば、製品の販売チャネル別在庫や売上状況の分析、設備の稼働状況やメンテナンスの予測などもあります。
――例えば、ロイヤルティプログラムの分析については、どのようなユースケースがあるのでしょうか?
ジェイコブ:こちらは、ある流通業のクライアントでの取り組み概略を示したものです。こちらのクライアントでは、ロイヤルカスタマーを増やしたいが、どのように顧客との関係構築を進めれば良いのか分からない、という課題がありました。
これに対して弊社では、GIANTを活用して訪問顧客等の分析を行い、分析結果をもとにしたロイヤリティプログラムを構築してご提供しています。
もちろん、一度の構築で終わるのではなく、POSデータやECアプリデータなど顧客からの数値的なフィードバック等を受け取り、それをもとにした分析を回してプログラムの改善を繰り返してカスタマーサービスの向上を行っています。
その結果、こちらのクライアントでは会員数が6万人から18万人へと3倍に増加し、新会員の85%がクーポンの2倍の金額を消費することとなりました。
――素晴らしい成果ですね。
あらゆる機能を単一プラットフォームで実現することが強み
――GIANTはデータ分析プラットフォームということですが、世の中にはBIツール(Business Intelligece)と呼ばれるツールも多数あります。それらとはどのような違いがあるのでしょうか?
ジェイコブ:差別化という観点ですと、「クライアントのビジネスバリューをしっかりと出していく」の一言に尽きます。
私たちは最先端テクノロジーを使ってはいるものの、テクニカルなもの自体にアウトカムを置いているわけではありません。DWH(Data Ware House:データウェアハウス)だけとか、ダッシュボードだけとか、そこをエンド・マイルストーンに置いていないのが大きな特徴かと思います。先ほどの事例のように、クライアントのKPIが売上高であれば2桁成長の達成に向けて支援します。しっかりとビジネスバリューを感じ取ってもらうことが、弊社の最優先事項と捉えています。
――ビジネスバリューを出すという点でもう1つ気になることがあります。先ほど貴社のクライアント数がアジア地域だけで15,000以上であることに対して、対応するデジタル人財は200名強とおっしゃっていました。コンサルティングや導入トレーニングを効率的に行うために工夫していることはありますか?
ジェイコブ:SMB市場とエンタープライズ市場とで、それぞれに適した導入オペレーションを用意しています。
SMB市場では、個別にコンサルティングをするという進め方ではなく、テンプレートを通じて自分たちで活用していただく導入オペレーションとしています。先ほどもお伝えした通り、GIANTには多様なテンプレートがあらかじめ用意されているので、ユーザーがゼロから作ることはなく、係数やKPIといった業界でよく使われている設定をチューニングすることで、必要なビジュアリゼーションを享受できます。
エンタープライズ市場でもGIANTをメインプロダクトとして提供することに変わりはないのですが、細かいニーズを汲み取る必要があるためコンサルティングもしますし、必要に応じてカスタマイズ対応をすることもあります。
――どちらの市場でもGIANTを軸に効率的にビジネスバリューを出しているのですね。
ジェイコブ:そういうことです。エンタープライズでもSMBでも、弊社はGIANTという単一のプラットフォームを通じてクライアントの課題解決をしています。
エンド・ツー・エンドにそれぞれのプロダクトをつなげているプロダクト群と比較すると、クライアントは格段に活用しやすくなりますし、弊社としての保守性も高まると考えています。そこも大きな差別化ポイントでしょう。
「Can Do, Will Do」の心を持ちながら、絶対にギブアップしない文化
――冒頭にお話しいただいた通り、2020年4月からは日立グループと提携をしたわけですが、そもそもなぜ日立と協業することになったのでしょうか?
ジェイコブ:理由は大きく3つあります。
まずは、事業シナジーが大きいことが挙げられます。日立は従来から製造業をはじめとするOT(Operational Technology:運用・制御技術)領域に強く、弊社の技術や顧客基盤をボルトオンすることで、最適な補完関係を築けると考えました。
ご一緒することで、日立のハードやサービスを我々のクライアントにクロスセル・アップセルすることができますし、日立としてもLumada事業のグローバル市場における高効率なデリバリーモデルの確立を加速させることができます。
もちろんこれは、クライアントにとっても非常に大きなメリットをもたらします。トータルオファーとしてシナジーを出しやすいというのが、大きなポイントでした。
――強みを持つ市場も異なりそうですね。
ジェイコブ:そうです。2つ目は、地理的な観点でのメリットです。
FusuioTechはグローバルカンパニーではあるものの、メインの基盤は東南アジアです。今後、日本とアメリカでの市場展開を持つ日立とパートナーシップを組むことで、よりスピーディーにこれらの市場への進出も叶うと考えています。もちろん日立としては、弊社の顧客基盤を活用できる点がメリットになります。
そして3つ目は、価値観やカルチャーが我々のものと非常に近しいということです。
――どのようなところが似ているのでしょうか?
ジェイコブ:一番は、業界や社会のために貢献したいという気持ちが非常に強いということですね。
弊社は「Can Do, Will Do」の心を持ちながら、絶対にギブアップしないというマインドセットを持ち合わせているからからこそ、短期間でここまで成長できたという自負があります。
価値観やカルチャーが違うと、どうしても摩擦が生じてしまいます。
提携の話を伺うまで日立の方々とコミュニケーションを取ったことはなかったのですが、日立のプロジェクトチームがクアラルンプールに来訪した際に、カルチャーやマネジメントスタイルを見て、「相性がいいな」と感じた次第です。
――新しい市場展開をする際に、何か営業/マーケティング戦略を変える想定はあるのでしょうか?例えば日本を考えてみても、商習慣は東南アジアやアメリカとは随分と違うところがあります。
ジェイコブ:細かいチューニングやローカリゼーションは必要でしょうが、ビジネスモデル自体を変える必要はないと考えています。テンプレートは、どの地域でも十分に通用するように設計しているので、適切なタッチポイントができれば受け入れられると思います。
一番重要な目標は、社会イノベーションを出し続けていくこと
――日立のメンバーとは具体的に共同プロジェクトなどを進めているのでしょうか?
ジェイコブ:現時点ではチームが分かれていますが、近い将来、コラボレーションをしていきたいと考えています。
双方のクライアントにそれぞれのサービスをボルトオンして提供する。そのためのディスカッションを始めていきたいですね。
――楽しみですね!それでは最後に、将来に向けた目標を教えてください。
ジェイコブ:とにかく一番重要な目標は、今後も社会イノベーションを出し続けていくことです。
日立グループの一員として、文化的にも事業的にも高いシナジーが出せると思っていますし、しっかりと結果を出していきたいとも思っています。
そのためにも、地理的な拡大を着実に進めていきます。展開する業界は、今のところは既存の金融・Eコマース・物流・ホテル・製造などを優先させますが、他にもニーズがあるようであれば、積極的に検討したいと思います。
その際は、業界のファーストペンギンとして、クライアントから様々なデータをご提供いただくことになるでしょう。
AIやデータサイエンスは最前線の領域であり、日立からも期待されているところでサポートもしていただける部分なので、クライアントへの提供価値最大化に向けて、切磋琢磨していきたいと思います。
編集後記
今回はQiita Zineの中では少し異色のテーマとして、エンジニアリングを最大化するための事業戦略についてのインタビューとなりました。世界的にDXの機運が高まっている状況だからこそ、同じカルチャーをもつ企業同士のコラボレーションが、新しい市場開拓には不可欠だと言えるでしょう。
現在は日立とのプロジェクトベースでの交わりはないとのことですが、今後は研究所やビジネスユニット、さらにはLumada事業拡大の中核を担う日立ヴァンタラ社をはじめとした日立グループ各社との連携が想定されるからこそ、ますます面白い展開になるだろうと期待しています。
取材/文:長岡武司
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