多くの企業がDXを進める中で、大きな課題として経営者を悩ませているのが「ITエンジニア」の人材不足でしょう。
経済産業省が2016年6月に発表した「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査」によると、2030年時点のIT人材の需要と供給のギャップは、最大で約79万人にまで拡大する可能性があると試算されています。DXを進めたくてもそれを担える人材がいないという、なんとも辛辣な未来が予想されているのです。
そんな状況の中、物凄い勢いでITエンジニアの育成を進めているのが株式会社夢テクノロジーです。同社では毎年1,000名ペースでエンジニア候補となる「IT未経験者」を採用し、研修・OJT等教育プログラムを経て、現場へと派遣する事業を展開しています。
また、昨年からは仕組みとして「夢転籍」という派遣先への転籍制度も設けており、増え続けるIT人材ニーズへの対応を強化しているとのことです。
具体的にどのような教育制度を整え、どのようなプロジェクトへとエンジニアをアサインしているのか。同社の常務執行役員と、実際に未経験からAWSプロフェッショナルへと成長されたエンジニアに、同社が進めるIT人材エコシステム戦略についてお話を伺いました。
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目次
プロフィール

現在は東日本エリアの営業責任者として約60人の営業マンをマネジメントしている。「未経験から次代を担うエンジニアが育つ日本一の企業になる!」というビジョンを達成するために奮闘中。

未経験からのエンジニア採用とは
――まずは夢テクノロジーという会社について教えてください。
鈴木:夢真ビーネックスグループ(東証1部)の中核子会社として、製造業やIT業界向けにエンジニア派遣事業を行っています。未経験人材を採用し、自社でIT教育を実施してお客さまに提供するという、独自の供給モデルを採用している点が、大きな特徴となっています。エンジニアの平均年齢は28.3歳と、とても若い組織です。
――未経験人材というのは、本当に全くエンジニア経験のない方も対象、ということでしょうか?
鈴木:そうです。エンジニアと一言で言っても、大きく開発系エンジニアとインフラ系エンジニアの2タイプに分かれていまして、開発系はロジカルシンキングがガッツリと求められます。インフラ系でもロジカルシンキングはもちろん必要ですが、それ以上にコミュニケーション能力が求められます。だからこそ、もともと営業職だった方や接客業をされていた方を、積極的に採用しています。
また、現在インフラ系エンジニアのニーズが非常に高まっておりまして、夢テクノロジーの人数比をお伝えすると、1:9くらいの割合でインフラ系エンジニアのほうが多くなっています。
――そんなに多いんですね!現状のエンジニア派遣市場は、どんな状況なのでしょうか?
鈴木:多くのメディアで言われているとおり、ここ4〜5年でITエンジニア不足が顕著になってきています。これは経済産業省も指摘しており、民間の様々な調査レポートからも明らかになっています。
特に昨年からのコロナ禍をきっかけに、オンプレ環境からクラウド環境への移管やハイブリット環境の構築のニーズが一層高まっています。
企業がIT投資を加速させて、そのようなニーズを満たしたくとも、肝心のIT人材がいない。だからこそ、クラウドエンジニアの需要が非常に強くなっています。派遣会社である我々としては追い風の状況ですね。
――なるほど。未経験からのエンジニアということで、研修設計が難しそうですね。
鈴木:研修内容については、その時々のニーズにあわせながら試行錯誤していまして、今お伝えした流れから、現在はクラウドエンジニア育成に注力しています。具体的には、2020年3月からアマゾン ウェブ サービス(以下、AWS)の認定資格取得エンジニアの育成に力を注いでいまして、
昨年には「AWS Japan Certification Award 2020 ライジングスター of the Year」(※)を受賞しています。
※2020年4月〜2021年3月の期間のうち、昨年度比で AWS 認定資格取得数の増加率(%)が最も大きかった(2019 年度取得10名以上の会社が対象)パートナー企業に贈られる賞。夢テクノロジーでは2020年3月末時点での資格取得者数が19名だったのに対して、2021年3月末時点では230 名となっており、増加率1211%を達成した点を評価され受賞に至った

秋葉原本社研修センター ※現在研修はオンライン中心に行っています
エンジニアのみならず、営業メンバーもAWS関連資格を取得
――これまでの実績値として、何名ほどのエンジニアを輩出されているのでしょうか?
鈴木:およそ4,000名ほどですね。弊社が「より多くの技術者の雇用を生み出し、高い技術力を提供することで、より豊かな社会の実現に貢献する」という理念を掲げていることから、2年連続で年間1,000 人以上の採用を行っていまして、その成果として人数も着々と増えているところです。全員が正社員です。
――すごい数ですね。お客様先のニーズにあったエンジニアを派遣する営業さんとしても、各メンバーのスキル感を把握しないといけないので、難易度が高そうですね。
鈴木:おっしゃるとおりでして、営業メンバーにおいても技術知識が求められるので、必要な知識をリフトアップするために都度勉強会を開いています。
今年から新しい試みとして、新卒メンバーに技術関連の資格を取得してもらうことも始めています。まだ一部ではありますが、AWSの資格を営業メンバーも持っている、ということになります。
隣にいる荒木は、エンジニアとしての業務以外にも、この資格取得に向けた研修の講師もやっています。
――なるほど。荒木さんは普段、どんなことをされているのでしょうか?
荒木:IT請負推進部という受託開発を行う部署にいまして、そこでAWSエンジニアとして活動しています。派遣事業がメインの夢テクノロジーの中では受託案件はまだ珍しく、比較的経験レベルの高いメンバーが集まっていることから、派遣エンジニアのバックサポートなども行っています。
また、鈴木からもお伝えしたとおり、社内OJT教育を行う役割も担っていることから、配属までの期間などで、受託案件でのOJTも進めています。

夢テクノロジーのAWSエンジニアが、初期段階スキルセットで構築可能な構成図例
――荒木さんも、もともとは未経験だったんですよね?
荒木:はい、2018年10月に夢テクノロジーに入社したのですが、それ以前はレストランで接客業をしていました。何か手に職を付けたいと思っていた中で、転職アドバイザーの方からITスキルを習得するメリットについて教えてもらい、思い切って夢テクノロジーにてITエンジニアへと転職した次第です。
――なるほど。まだ3年ほどの期間ではありますが、早くも研修講師として教える立場にもなっているわけですね。
鈴木:荒木はお客さまからの評判も良く、弊社のエースエンジニアの1人です。
7つのエンジニアタイプ × 5段階スキルレベルのマトリクス
――エンジニアとしては、具体的にどのようなスキルレイヤーがあるのでしょうか?
荒木:全体を考えると、以下のスキルマトリクスにある通り、7つのエンジニアタイプと5段階のスキルレベルで表現されています。それぞれで必要となる要件が明確になっているので、自分が今どこにいて、今後目指したい方向へと進むにはどんなスキルが必要になるのかが、明確に示されています。
荒木:例えば、最近需要が増えているクラウドエンジニアの場合、大きくは3つのステップに分かれています。
AWSの場合、最初の段階は「クラウドプラクティショナー」ということで、なぜクラウドが良いのかなどを含めたクラウドの基礎的な部分を習得するものです。こちらは職種の垣根を超えて受講してもらうことを想定したもので、先ほどお伝えした通り新卒の営業メンバーにも受講してもらっています。
次の段階はアソシエイトレベルです。ここでは実際の設計や開発、管理についての知識や技術ノウハウを学びます。
そして最後はプロフェッショナルレベルです。ここまで知識を組み合わせて、さらに具体的なケースへと応用できるスキルを習得していきます。具体的には、詳細の設計やコスト計算などができる「ソリューションアーキテクトプロフェッショナル」と、より運用面における事業継続性の担保などを司る「DevOpsプロフェッショナル」の2通りのメンバーがいます。
――私自身は文系 × 未経験からプログラミングなどをやっていった人間なので、エンジニアリングの思考を習得するためにすごく苦労した記憶があるのですが、その辺りは実際に経験された荒木さんとしてはいかがでしょうか?
荒木:おっしゃる通り、技術的な知識が全くない中での勉強だったので、サーバーやデータベース、ストレージの意味すら理解できていない状況でした。とにかく必死で、まずは言葉を覚えるところから始め、次第に構成図などが読めるようになっていきました。
今では、プロフェッショナルレベルのAWSエンジニアとして、後進の育成にも積極的に携わるようにしています。
企業のIT人材不足の切り札となる「夢転籍」
――少し現場でのお話も伺いたいのですが、具体的にどんな課題を解決されてきたのかについても、ぜひ教えてください。
荒木: IT請負推進部へと異動したのは2020年でして、それ以前は派遣エンジニアとしてお客さま先に配属されていました。
最初の現場は複数のデータセンターを運営している会社さまがクライアントでして、現場は拠点リーダーとなるプロパー1名に対して派遣や新人スタッフが十数名いるというチーム構成でした。そこでは受付対応や巡回監視など、技術的な対応というよりもは対人業務という側面が強い業務を行っていました。
基本的には24時間365日の現場だったので、常に何かしらのリクエストに応えねばならないという状況でした。その中で、どうすればセキュリティをしっかりと担保して上でサービスを継続的に提供できるかを自分なりに考え、リーダーに対して人的配置や文書管理部分の提案をするなどして、業務改善に向け たアクションを取り続けていきました。
――冒頭に「コミュニケーションが大事」というお話が鈴木さんからありましたが、まさにこのような役割が期待されているからこそなんですね。
荒木: そうだと思います。例えばデータセンターの床にびっしりと埋まっている配線一つひとつがどこと繋がっているのかなど、業務の背景をしっかりと理解するというのは大前提になりまして、その上で、どんなオペレーションが求められているのかを考えていくことになります。
後から知ったことなのですが、別の拠点のリーダーが夢テクノロジーから転籍された方でして、現場での評価が高くなったからこそ転籍してそのままリーダーとして活躍されているというのです。
それを聞いて、そういうプロセスもあるんだなと感じましたね。
鈴木: このような転籍の仕組みを設けていることも、弊社の大きな特徴の1つになります。
「夢転籍」という制度でして、派遣先で3年間就業したら、そのままその会社へと転籍ができるというものです。今荒木がお伝えしたメンバーの事例は、サービスができる前に転籍されたものとなりますが、2020年10月からは正式な制度としてスタートしています。開始してからまだ1年弱ですが、お客さまからの反響が大きい状況です。
――反響のポイントとしてはどこになるのでしょうか?
鈴木: やはり、多くの企業におけるエンジニアの内製化ですね。自社で完結させたいが、なかなかIT人材がいない。誰もが知っているような大企業でも、人材募集をかけてもなかなか最適なメンバー採用に繋がらない。
そんな背景があって、ニーズとしては非常に大きくなっていると実感しています。
――せっかく育てたエンジニアが、そのままクライアント他社へと転籍されるのは、夢テクノロジーとしては大丈夫なのでしょうか?
鈴木: もちろん、短期的に考えると事業的に厳しい部分はありますが、一方でそのようなニーズをもつクライアントを新規開拓できます。 実際に夢転籍制度を前提として、弊社の派遣サービスのご利用を開始いただく企業が最近増えております。
また、中長期的な採用の観点でも非常にメリットがあると感じています。エンジニア本人も様々な未来の選択肢が増える点で、モチベーションアップにもつながっております。
全国に1名から派遣対応可能。5年以内に、1万人のエンジニアが所属する会社へ
――ここまでお話を伺って、夢テクノロジーだからこその“強み”が見えてきたのですが、改めてポイントを教えてください。
鈴木:大きくは3つあると考えています。
1点目はエンジニアの供給力です。先ほどもお伝えした通り、夢テクノロジーには3,500名ほどのエンジニアが正社員として所属していて、かつそのうちの13%は全国転居が可能なメンバーです。
そのため、北海道から沖縄まで、全国のプロジェクトに1名からアサインをすることが可能です。
2点目は先ほどからお伝えしている通り、充実した研修・フォロー体制にあります。
東京・秋葉原と大阪・心斎橋に計3ヶ所の自社研修センターを備えていて、そこで一人ひとりに合った研修の提供と担当営業によるフォローアップ体制を敷いています。2ヶ月間、給料をお支払いしながらこれだけの人数を育成している会社は、なかなかないと自負しています。
そして3点目は、夢転籍です。新しい採用モデルとして多くの企業さまからのニーズが高いからこそ、これから夢転籍実績も増えていくと考えています。
――いいですね。今後の目標としてはいかがでしょうか?
鈴木:5年以内に、1万人のエンジニアが所属する会社へと成長させたいと考えています。
そのためにも、目下取り組むべきは「営業力」ですね。基本的に夢テクノロジーで育成する人材は、ベースが未経験なので、未経験だからこその価値をしっかりとお客さまに伝えることが重要だと捉えています。
――未経験の価値とは、どういうところにあるのでしょうか?
鈴木:一生懸命なところですかね。今までやっていたこととは全く違うことにチャレンジするわけですから、やる気とガッツ、そして向上心が非常に魅力的だと感じています。
荒木:教材と時間は与えられますが、能動的に学ばないと理解できないんですよね。必然的に、良い意味でみんな焦るので、卒業に向けた努力を怠らない文化が醸成されていると感じます。
――ありがとうございます。それでは最後に、読者の皆さまに一言ずつお願いします!
鈴木:先ほどのエンジニア1万名目標と並行して、目下クラウド人材の育成に注力しているからこそ、Sales ForceとAWSエンジニアを3年以内に1,000人にしようとしています。
「未経験からエンジニアが育つ日本一の企業になる」をスローガンに掲げて日々邁進してまいりましたが、今期は「未経験~圧倒的No.1企業になる」を目標に一層励んでまいります。エンジニアのご要望がございましたらお気軽にお声がけください。
荒木:未経験であっても、研修の充実度であったり、種類もどんどん拡充しているので、門が広く開かれている会社だなと思います。
またエンジニア経験者であっても、例えばIT請負推進部での受託開発のプロジェクトメンバーなど様々な席が用意されているので、全方位でご協力いただきたいと思います。
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編集後記
まずもって、毎年1,000名単位でエンジニアが増えていくという数字規模がすごいなと感じました。また、それらメンバーの大半が未経験ということで、エンジニアの勘所も含めた教育プログラムも、ぜひ詳細を知りたいなと感じた次第です。なお、実際に現場経験を経てからしっかりと採用したい、という企業採用担当にとっては、特に「夢転籍」は非常にありがたい仕組みだと思うので、2020年10月からの新しい取り組みを試してみるのも良いでしょう。
取材/文:長岡 武司
撮影:太田 善章