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【加治慶光 × 澤円】日立のLumadaはなぜ面白いのか? 〜HSIF2021 JAPANレポート②

インターネットの商用化がスタートしてから十数年が経過し、情報の流動性がかつてないほどに高まっている昨今では、社会課題への関心も確実に高まっています。
気候変動問題や人口問題、デジタル・デバイド、絶対的貧困と相対的貧困、孤独問題など。各分野における構造的な課題は山積している状況です。限られた人数で対応策を考えて実行するためには、デジタルテクノロジーの活用が大前提になるのは、当然の流れと言えます。

そんな中、2021年10月11日〜15日にかけて開催された日立製作所主催のビジネスイベント「Hitachi Social Innovation Forum 2021 JAPAN」(HSIF2021 JAPAN)では、これら社会課題の解決に向けて行動を起こしている様々なリーダーたちが登壇し、多様なテーマでのディスカッションを展開していました。

その中でもひときわ盛り上がりを見せたのは、日立の「Lumada(ルマーダ)」を取り巻くパネルディスカッションです。「地球を救う機会を持つ最後の世代にもなるかも知れない」と言われる中で、私たち、そしてデジタル変革をけん引するLumadaに何ができるのか。

本記事では、Lumada Innovation Hub Senior Principalである加治慶光氏と、Lumada Innovation Evangelistである澤円氏によるエキスパートセッション「乗り越えなければならない社会課題、Lumadaは何ができるのか?」の様子をレポートします。

プロフィール

加治 慶光(かじ よしみつ)
株式会社日立製作所
Lumada Innovation Hub Senior Principal

 

澤 円(さわ まどか)
株式会社日立製作所
Lumada Innovation Evangelist

自然と人間とテクノロジーは、どのように共存していくのか

最初の議題は「今、まさに起きていること」で、以前より社会課題に対してトップランナーとして取り組んできた加治氏より、直近での興味関心領域が述べられました。

「特に気候変動に関しては、非常に大きな動きがあるんじゃないかなと思っています。2021年8月にはIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change : 気候変動に関する政府間パネル)による第 6 次評価報告書が発表され、日立がプリンシパル・パートナーとして深くコミットしているCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)も2021年11月に開催されるなど、国家レベルでの対応が行われています。気候変動は直接自分に関係のあるものではないと感じる方もいるかと思いますが、『そういうことが起こっている』ということを認識するだけでも、日々の仕事への姿勢は違ってくると思います」

これに対して澤氏は、今年2月にビル・ゲイツ氏より出版された書籍(日本では8月出版)をテーマに議題を持ちかけました。

「今、僕の手元にはビル・ゲイツ氏の『地球の未来のため僕が決断したこと』(早川書房)という本があるのですが、原題は “How to Avoid a Climate Disaster”で、原題の方がより本質的だなと思います。今まさに起きていることを語る際に、地球が主語になることが多いのですが、やはり『人が住んでいる地球』ということで、人類とセットでこれらは語られる必要があるかなと感じています」

日本という気候が比較的穏やかな国にいると気候変動の影響を感じ取りにくいわけですが、欧州諸国や赤道直下の島国等、現時点でも非常に深刻な影響がもたらされている国もあります。
だからこそ、EU諸国など諸外国によるサステナビリティへの取り組みは、より「自分ごと」として考えられた上で具体的なアクションへとつながっていると言えそうです。

また、長年この領域での取り組みを続けてきた加治氏は、15年ほど前から、人間の欲望のままにモノを作り続けていくことの限界を感じていたと言います。

「以前私は自動車会社に勤めて、超高性能の自動車を担当したことがあります。2007年にその車を世界に発表したわけですが、その際に『こういう車が増えていっても自動車の未来はないんじゃないか』ということを思ったんです。人間は、移動を担保するために自動車に乗ります。しかし、そこに至るまでに自分たちの欲を押し通していっても、きりがないなと。ビル・ゲイツ氏もその本の中で同じようなこと言ってますね」

そして、東日本大震災がサステナビリティを考える上でのテクノロジーの存在を意識するきっかけになった、と加治氏は続けます。

「当時私は内閣総理大臣官邸内閣広報室に国際・IT広報として勤めていました。東日本大震災には、テクノロジーによって起こった複合災害という側面もありました。そこで、自然と人間とテクノロジーがどのように共存していくのかを考える必要があると思いました」

デジタル化があるからこそ「新結合」もスムーズにいく

様々な技術のあり方が考えられるわけですが、その中でも「デジタルテクノロジー」がここ数年で爆発的に進化を遂げていることは疑いようのない事実です。このデジタルの可能性について、澤氏は以下のようにコメントをしました。

「デジタルというものは、今やインフラになっており、水道や電気、ガスなどと同じようなレベルで世界を支えていると言っても過言ではないでしょう。デジタルの『可能性』云々を語るまでもなく、もう生活に必要不可欠なものになっているわけです。」

また、このデジタルが一種のインフラとして整備されてきている社会においては、そこを流れる「データ」も重要であると、澤氏は続けます。

「10年前は、そもそもデータにできなかったり、データになっていても分析できない情報が多かったと思うのです。これは、コンピュータの能力やデータの収納能力がボトルネックになっていたわけです。それが今や、メガデータセンターは潤沢にあるし、回線もどんどん太くなっている。そして何よりコンピュータが高性能化していて量子コンピュータという新顔も出てきているし、可能性は非常に大きいということが言えるかなと思います」

これに呼応する形で、加治氏もカナダの首相の言葉を引き合いに出しながら、デジタルの拡張性とそれに伴うUX(User Experience)の重要性についてコメントしました。

「第23代カナダ首相のジャスティン・トルドー氏が2018年のダボス会議で次のようにおっしゃっていました。『今ほど変化の速度が速い時代はかつてなかった。しかし後で振り返ってみると、今ほど変化の歩みが遅い時代もなかろう』と。これはつまり、変化のスピードが刻一刻と上がっているということで、昨日できなかったことが明日はできるようになる時代である、ということだと捉えています。
例えば我々の国で言うと、政治主導ではありますがデジタル庁が2021年9月にできたことはすごく大きい変化だと思っています。
これは東原さんも語っていましたが、デジタル・デバイドが広がらず、デジタルがお年寄りや子どもにも簡単に使えて優しいものであるということも重要だと考えています」

デジタルアレルギーという言葉があるように、デジタルテクノロジーに苦手意識がある人は一定数いるわけですが、そういう方々も含めて包摂していくことが、これからのデジタルのあり方だと、澤氏も強調します。

「本来テクノロジーが何のためにあるのかというと、人を幸せにするために存在していると、僕は信じてるんですよね。となると、テクノロジーが人間に歩み寄っていくのが自然の流れだなと。だからこそ、より一層入力が楽になっていったり、データの引き出しが簡単になっていったり、誰でもできるようにすることが、まさにテクノロジーの使命でありデジタルの可能性だと感じています」

デジタルの議論の中でよく出てくる言葉の1つに「イノベーション」があります。かつて経済学者ヨーゼフ・シュンペーターは、著書『経済発展の理論』の中でイノベーションのことを「新結合」と表現し、これまで組み合わせたことのない要素の組み合わせにこそ、新たなる価値のタネがあると表現しました。この話を引用しつつ澤氏は、デジタルがインフラになる世界だからこそ、この新結合もスムーズにいく未来を描いていると言います。

「なるべく遠いもの同士を組み合わせていく際に、デジタルデータ化されていると、その組み合わせを考えるのがとても楽なんですよね。
また、今までだったらクロスしなかったような領域の人たちが、デジタルの世界ではある意味でフラットにクロスできるようになります。例えばSNSを使って何かをしようとすると、デジタルの世界ではそれこそ加治さんも僕もビル・ゲイツ氏も、誰とでもつながれるんですよね。 そこでスムーズにアイデアの交換などができるのは、すごく大きいところかなと思います」

OTとIT、そしてプロダクトが揃っているユニークな会社

では、これらデジタルの力を「社会課題の解決」へと適用するためには、どんな論点があり、どのような姿勢で取り組んでいくべきなのでしょうか。

澤 : 日立の何が魅力かと言うと、ありとあらゆるアセットが揃ってるってことなんですよね。最近気に入っているフレーズで「発電所から髭剃りまで」と言っています。発電所も作れるし電車もある一方で、髭剃りとかも作っていると。
これらが全部デジタルの文脈でつながっていくと、さきほどの話になると思うんですね。つまり、社会課題を解決するために1個のセグメントや1個の製品カテゴリーでできることって、そんなに大きくないと思うんです。その社会課題を解決するためには必ず「組み合わせ」が必要になってくると。

加治 : OT(Operational Technology)とITとプロダクト。日立はその3つともを持っているからとてもユニークな会社だと東原さんもおっしゃっていましたが、その3つを持ってるからこそ社会的責任もあるんじゃないかと思うんですよね。そして、ひたむきに社会的責任と向き合ってきた会社だからこそ、一種みなぎるような雰囲気があるのかなと、最近会社に入った者としては感じますね。

イベント冒頭の基調講演「社会インフラのDXが実現する未来 ― 持続可能な社会と創造的消費者」にて、日立のあり方を紹介する東原敏昭氏(日立製作所 代表執行役 執行役会長兼CEO兼取締役)

澤 : 中の人は意識していないのがまた面白いんですけどね。入ってみて、本当にいい会社だなと思いましたし、まだポテンシャルを秘めていると感じます。気づいていないからやってないだけで、できることがいっぱいあるんだろうなと。
日立はグループ全体で約35万人いるのですが、この人数はアイスランドの人口とほぼ一緒なんですよね。アイスランドにはお年寄りから赤ちゃんまでが居るわけですが、日立はその一国と同じ人数で、且つ全員が労働人口なんですよ。人数だけを見ても結構なパワーを持っていることがわかりますよね。
だからこそ、我々を取り巻く社会課題を乗り越えるためには、日立は絶対にサイロ化してはならないというのが、すごく言いたいところでもあります。つまり、分断してはならないということです。COVID-19は多くのものを分断したわけですが、分断は解決を遠ざけるものだと思っているので、いかにしてその分断を避けて解決していくかというのがポイントだと感じます。

加治 : COVID-19はたしかに多くのものを分断しましたが、全人類が1つの共通の大きなチャレンジに立ち向かった最初の事例でもあると思います。未曾有の事態に最初のうちはどうしても他者と協力できる状況ではないところも多かったと思います。ですが、最近はワクチンの融通をしあったり、国を超えてワクチンや治療薬の開発スピードを上げていったりと、少しずつ手を取り合うところが出てきました。

COVID-19への対応を経て、そのほかの諸問題についても以前より手を取り合いやすい環境が構築されているのではないかと思います。
今度のCOP26でも様々な議論がなされると思いますが、このタイミングで人類が立ち向かうべき大きな課題として気候変動があることを、日立が危機感をもって伝えることは重要だと思います。

Lumadaという旗印のもとに多くのビジネスユニットがつながる

澤 : なぜ日立のLumadaなのかと言うと、「一次情報」という観点でLumadaというキーワードがすごく効いてくる気がしています。
先ほどお伝えしたように、日立は多様なアセットを持っていて、僕はこれを「大量の一次情報がある」という言い方をしています。
製品に関する一次情報をメーカーとして持っているため、オペレーションをしている人の「体験の一次情報」もあり、これが結構大きいと思います。
例えば開発途上国ですごく応用が利いたり、別のプロセスを回すときに抽象概念化されたものを載せてもう1回やっていくときなど、「大量の一次情報がある」と今まで結ばれていなかったもの同士をつなげやすいのではないかと思うのです。

加治 : そうですね。IoTのようなデジタルテクノロジーを使うことで、例えば今まで結ばれていなかった鉄道と発電が何らかの形で結ばれたりするわけです。
さらにもう1つ、最近はLumadaアライアンスプログラムを通じて、日立の周辺にいる人々の力を巻き込んでいこうという発想も、非常に良いと思っています。
デジタル領域への進出自体は決して早かったとは言えませんが、一旦ギアが入るとスピードが速いのが日立です。人類規模の課題へのチャレンジに対しては日立がリーダーシップをとっていかねばらならないと感じており、日立の広い技術ラインナップを、他の企業にもどんどん使ってもらいたいなと思います。

澤 : Lumadaという旗印のもとに、多くのビジネスユニットがつながりやすくなったということがポイントだと思います。Lumadaというキーワードを出すと、日立の中の多くのアセットが、自然につなげられるんですよね。特定の何かの製品という文脈では、そのビジネスユニットに閉じられてしまいやすいのですが、Lumadaという文脈においては様々な人が絡みやすくなるのです。
Lumadaというのは、ある製品のラインナップの話でもなければ、何か特定のソリューションを指すものでもなくて、もうちょっと概念的なもので抽象度の高いものです。僕はこれを「スピリット(魂)」と言っていまして、日立のスピリットが入っているものであると表現しています。

加治 : 日立って、良くも悪くもとても日本的な会社だなと思っていて、35万人も社員がいる中で非常に和を以て貴しとしているわけですが、そういうものを批判めいた言葉で「村社会」と呼ぶこともありますよね。
でも、最近は地球上が全部1つの村になってしまえばいいのではないかと思うんですよね。そして、地球上が全部1つの村になることに一番寄与するのがデジタル技術ですよと。ブラジルの人と物理的に村を作ることはできないですが、デジタル上では同じ村に住む村民になることができるはずです。
なので、これから地球全体を村化していくという流れの中で、Lumadaはその役割を背負ってるんじゃないかなと。ある意味、日本人的な良さが活かされるのではないかと、そのように思います。

大きい話から入らないと、結局大きいことはできない

澤 : この2人、随分とスケールの大きい話をしてるなと感じている方もいるかもしれませんが、大きい話から入らないと、結局大きいことはできないわけです。最初に高い視座でものごとを考えて、そこから何ができるんだっけと落とし込んでいくのが重要かなと思います。
よく加治さんがおっしゃっている「バックキャスティング」もそうですが、まずビジョンがあってそれに対していかに現実的なアクションを決めていくのかというアプローチは、今後より一層大事になります。
ちなみに加治さんは、今後どんなことをやってみたいですか?

加治 : 私は日々の仕事に向かうときに、様々なことを考えながら少しだけ角度を変える、という考え方をしています。例えばLumada Innovation Hub Tokyoで人と人との出会いがあったとき、その会話がうまく成り立つように議論を進めたり、スタートアップが良い提案をお客さまにできるようにしたりとか、そんなことを日々の中で少しずつやっていきたいなと思います。

澤 : それこそレンガ職人の話で、常にそのレンガを積むことの意味合いを誰もが意識できるようになってくると、大きなことや課題解決が進んでいくと思うのです。
あと、僕がすごく大事にしているのは、それを面白がってくれる人を増やしたいなということです。

加治 : もう澤さん、見ただけで面白いですよ(笑)。

澤 : 出落ちの芸人みたいですけどね(笑)。「面白がる」ということは、無限のパワーを秘めていると僕は思っていまして、面白がってくれる人が増えると、結局はムーブメントが起きやすくなってくる。そうすると今までアプローチが難しかった課題も解決できるようになってくるかなと思っています。

編集後記

澤氏が最後におっしゃっていた「面白がる」こと、とても大事ですね。様々なアセットを活用できる日立製作所ではもちろん、リソースが限られているスタートアップでも個人の活動でも、人を巻き込んでポジティブなループへと昇華させていくのは、結局は「面白い」と思える感情があるか無いかだと言えるのかもしれません。
DXのためのDX、デジタル化のためのデジタル化ではなく、面白くポジティブな世界を描けるか否かが、不確実性の高い世界においては大事な姿勢であると、改めて感じたセッションとなりました。

取材/文:長岡武司


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